光と風と夢(中島敦)のあらすじ・登場人物
南洋の島のスティーヴンソン
- 歴史
- 心理
- 文字数
- 78,909字
- 読了目安
- 約2時間38分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
この作品について
中島敦の中編。第十五回芥川賞候補となった。1942年(昭和17)5月、『文学界』に「ツシタラの死」の題で発表され、のちに「光と風と夢」と改題された。『宝島』『ジーキル博士とハイド氏』で知られる英国の作家ロバート・ルイス・スティーヴンソンが、病身を癒すために移り住んだ南洋サモアでの晩年を、日記体を交えて描く。文明と未開、芸術家の使命と現実の政治との相克を、格調高い文体で見つめる。島民に「ツシタラ(物語る人)」と呼ばれた作家の姿が題材である。
あらすじ
肺を病む英国の作家ロバート・ルイス・スティーヴンソンは、療養の地を求めて各地を転々とした末、南太平洋の島サモアに居を定める。温暖な島の自然と純朴な島民に囲まれ、彼はヴァイリマの邸宅で創作に打ち込みながら、残された命の日々を過ごしていく。日記に綴られるのは、書きあぐねる長編小説への苦闘、亡びゆく南洋の文化への愛惜、そして芸術家として書くことと、一人の人間として生きることの間の絶えざる葛藤である。やがてスティーヴンソンは、列強に翻弄されるサモアの政情に心を痛め、搾取される島民を弁護して植民地当局と対立し、一個の文筆家の立場から現地の政治に深く関わっていく。島民たちは彼を「ツシタラ(物語る人)」と呼んで敬愛した。理想と現実、文明と未開のはざまで揺れながらも、書くことと生きることに誠実であり続けた作家は、ある日、脳溢血によって突然この世を去る。島民たちは涙のうちに彼を島の山の頂に葬り、「トファ(眠れ)、ツシタラ」と別れを告げるのだった。
登場人物
- ロバート・ルイス・スティーヴンソン 「宝島」で知られる英国の作家。病を得て南洋サモアに移り住み、島民に「ツシタラ」と慕われた本作の主人公
- ファニー スティーヴンソンの妻。病身の夫を支え、島の暮らしをともにする
冒頭部(原文より)
一八八四年五月の或夜遅く、三十五歳のロバァト・ルゥイス・スティヴンスンは、南仏イエールの客舎で、突然、ひどい喀血に襲われた。駈付けた妻に向って、彼は紙切に鉛筆で斯う書いて見せた。「恐れることはない。之が死なら、楽なものだ。」血が口中を塞いで、口が利けなかったのである。
「光と風と夢」中島敦(青空文庫)
末尾部(原文より)
老酋長の一人が、赤銅色の皺だらけの顔に涙の筋を見せながら、――生の歓びに酔いしれる南国人の・それ故にこそ、死に対して抱く絶望的な哀傷を以て――低く眩いた。「トファ(眠れ)! ツシタラ。」
「光と風と夢」中島敦(青空文庫)
原文を読む
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