内蔵允留守(山本周五郎)のあらすじ・登場人物
刀も鍬も道は一つ
- 歴史
- 心理
- 文字数
- 12,088字
- 読了目安
- 約24分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
この作品について
山本周五郎が1940年(昭和15年)、「キング」に発表した時代小説。剣の道をきわめようと、名も知られぬ剣客・別所内蔵允をたずねて来た若者・岡田虎之助。だが老人は剣を捨てて百姓をしていた。「刀と鍬と、執る物は違っても道は唯一つ」——真の師との出会いを通して、道の本質を描いた一編である。
あらすじ
八月すえの灼けつくような午後、岡田虎之助は、二岐の道で当惑して立ちどまる。人の背丈ほども伸びた雑草の茂る荒地、氾濫する目黒川——このあたりに、剣客・別所内蔵允が住んでいると聞いてやって来たのだ。通りかかった娘に道を尋ね、ようやくたどり着いた虎之助が見たのは、剣を捨て、鍬をとって黙々と土を耕す一人の老人の姿だった。虎之助は、剣の奥義をきわめようと、その内蔵允に弟子入りを願う。だが老人は、剣を教えようとはしない。「道は一つだ、刀と鍬と、執る物は違っても道は唯一つしかない、是れからもなに一つ教えはせぬぞ、百姓は辛いぞ」——その一言が、虎之助の胸を貫く。今日まで「兵法」の殻にとらわれていた虎之助は、いま濶然とそこから脱け出す思いがした。道は一つ、無窮に八方へ通じている——その大道の一端に、確かに立ち上がることのできた自分を、彼は感じた。真の師との出会いを通して、剣も鍬も貫く「道」の本質を描いた、山本の一編である。
登場人物
- 岡田虎之助 剣の道を求める若者
- 別所内蔵允 剣を捨て百姓となった剣客
- 奈美 内蔵允の孫娘
冒頭部(原文より)
岡田虎之助は道が二岐になっているところまで来て立ちどまり、じっとりと汗の滲み出ている白い額を、手の甲で押し拭いながら、笠をあげて当惑そうに左右を眺めやった。 「このあたりに別所内蔵允先生のお住居があると聞いてまいったが、もし知っていたら教えて呉れまいか」
「内蔵允留守」山本周五郎(青空文庫)
末尾部(原文より)
「道は一つだ」と云った、「……刀と鍬と、執る物は違っても道は唯一つしかない、是れからもなに一つ教えはせぬぞ、百姓は辛いぞ」 「先生……」 虎之助は涙の溢れる眼で、瞬きもせずに老人の面を見上げた。師を得た、真の師と仰ぐべき人を得た、自分の行く道は決った。今日まで四六時ちゅう縛られていた、「兵法」の殻から、彼はいま濶然と脱出した気がする。
「内蔵允留守」山本周五郎(青空文庫)
原文を読む
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