盈虚(中島敦)のあらすじ・登場人物
満ちれば欠ける人の世の無常
- 歴史
- 心理
- 文字数
- 7,283字
- 読了目安
- 約15分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
この作品について
中島敦が1942年(昭和17年)、「政界往来」に「牛人」とともに発表した短編小説。「春秋左氏伝」に取材した中国物の一編である。春秋時代の衛の国を舞台に、傲慢で非情な太子・蒯聵(かいがい)の波乱に満ちた生涯を描く。題の「盈虚」は月の満ち欠けのこと。栄枯盛衰をくり返す人の世と、権力をめぐる非情な人間模様を、中島が漢文調の格調高い文体で刻んだ一編である。
あらすじ
春秋時代、衛の霊公の世。太子・蒯聵(かいがい)は、あるとき、畑を耕す農夫たちが自分をあざける奇妙な唄を歌うのを耳にする。傲慢で気の強い蒯聵は、それを恥じて激昂し、無謀な企てに走ったすえに、国を追われて他国へと流亡する。父の死後、蒯聵の子・輒(ちょう)が衛侯の位に即くと、こんどは父と子が国をめぐって争うという、むごたらしい骨肉の相剋が始まる。流転の果てにようやく帰国し、位を奪って衛侯となった蒯聵だったが、その非情な振る舞いは人心を離れさせ、彼もまた、追いつめられて悲惨な最期を遂げる。璧(宝玉)に執着したまま殺されていく男に、「お前を殺せば、璧が何処かへ消えるとでもいうのかね」と嘲笑が浴びせられる。満ちれば欠ける月のように、栄枯盛衰をくり返す人の世の無常と、権力をめぐる非情な人間模様を、中島が漢文調の格調で描いた中国物の一編である。
登場人物
- 蒯聵(かいがい/のちの衛侯) 衛の太子。傲慢と非情ゆえに国を追われ、流転の果てに位を奪うが、人心を失って悲惨な最期を遂げる
- 霊公 衛の君主。蒯聵の父
- 己氏 追いつめられた衛侯(蒯聵)を、璧を奪って殺す男
冒頭部(原文より)
衛の霊公の三十九年と云う年の秋に、太子が父の命を受けて斉に使したことがある。途に宋の国を過ぎた時、畑に耕す農夫共が妙な唄を歌うのを聞いた。
「盈虚」中島敦(青空文庫)
末尾部(原文より)
己氏は蕃刀の鞘を払って近附きながら、ニヤリと笑った。 「お前を殺せば、璧が何処かへ消えるとでもいうのかね?」 これが衛侯の最期であった。
「盈虚」中島敦(青空文庫)
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