城中の霜(山本周五郎)のあらすじ・登場人物
安政大獄に散った橋本左内
- 歴史
- 心理
- 文字数
- 12,835字
- 読了目安
- 約26分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
この作品について
山本周五郎が1940年(昭和15年)、「現代」に発表した時代小説。安政の大獄が終段を迎えた冷えびえとした朝、大老・井伊直弼のもとへ、処刑の完了が告げられる。志士・橋本左内の潔い最期と、彼を慕う女・香苗の思いを、「昨夜城中霜始メテ隕ツ」の辞世に重ねて描いた一編である。
あらすじ
安政六年十月七日の朝、大老・井伊直弼は例になく早く登城していた。今年になって初めての寒い朝——だが、冴えかえっているのは寒気だけではなかった。後に「安政大獄」と呼ばれる大疑獄が、まさに終段に入りつつあり、老中部屋は鋭く澄みきった沈黙に蔽われていた。肥満した直弼が襟首の面皰を気にして眉を顰めるなか、町奉行・石谷因幡守が蒼白い顔で参入し、「御裁決の罪人の処刑を終りました」と告げる——そのなかには、志士・橋本左内がいた。物語は、この歴史の転換点を背景に、左内の潔い最期と、彼を慕う女・香苗の思いを描いていく。因幡守から「左内は笑って死んだ」と聞かされたとき、香苗はどうしても心に生きている左内とぴったりせず、他人事のように感じていた。だが、いま彼女の胸に、本当の左内が昔の姿で戻ってくる。「あなたは、少しの偽りもなく、あなたらしい生き方をなさいました、あなたらしい死に方をなさいました」——香苗は、左内の辞世の詩を取り出し、噎びあげながら静かに吟じる。「……昨夜、城中、霜始メテ隕ツ……」。安政大獄に散った志士の最期を、香苗の哀切な思いとともに描いた、山本の一編である。
登場人物
- 井伊直弼 安政大獄を進める大老
- 橋本左内 処刑される志士
- 香苗 左内を慕う女
- 石谷因幡守 町奉行
冒頭部(原文より)
安政六年十月七日の朝、掃部頭井伊直弼は例になく早く登城をして、八時には既に御用部屋へ出ていた。今年になって初めての寒い朝であった。
「城中の霜」山本周五郎(青空文庫)
末尾部(原文より)
――左内さま、あなたは、少しの偽りもなく、あなたらしい生き方をなさいました、あなたらしい死に方をなさいました、あなたはもう再び、香苗の心から去っておゆきにはなりませんわ。 香苗は生きた彼に呼びかけるようにそう呟いて、ふところから辞世の詩を取出した。そして、第三の句に至ると、噎びあげながら静かにこう吟じた。 「……昨夜、城中、霜始メテ隕ツ。……昨夜城中霜始メテ隕ツ……」
「城中の霜」山本周五郎(青空文庫)
原文を読む
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