松風の門(山本周五郎)のあらすじ・登場人物
松風に亡き友を悼む武士
- 歴史
- 心理
- 文字数
- 12,799字
- 読了目安
- 約26分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
この作品について
山本周五郎が1940年(昭和15年)、「現代」に発表した時代小説。人里離れた「白狐の窟」にこもって、ある決意のために身を修める若い武士。友・八郎兵衛をめぐる悲しい因縁と、松風の吹きわたる寺の門に亡き友を悼む心を、静謐な筆致で描いた、山本前期の名短編である。
あらすじ
谿谷にのぞむ断崖の上、里人が「白狐の窟」と呼んで近寄らぬ洞窟に、ある新秋の日、一人の若い武士がやって来る。膨れた旅嚢を背負い、緋羅紗を抱えたその武士は、「此処なら邪魔をされずに済むだろう」とつぶやいて、洞窟に荷を解く。翌朝から、彼は入口近くに静坐し、大滝の震動と飛沫のなかで、じっと壁面を瞶めて身を修めはじめる——ある決意を果たすために。物語は、この若い武士と、友・八郎兵衛をめぐる悲しい因縁をたどっていく。やがて時は流れ、宗利と大学の二人が、馬を駆って城北の祗陀林寺へと向かう。左右に松並木のつづく参道で馬を下り、松風が蕭々と鳴るなかを、二人は黙って歩いていく。石段を登り、高い山門をくぐると、境内もまた潮騒のような松風の音に溢れていた。「――八郎兵衛、会いに来たぞ」。宗利は松風の音へ呼びかけるようにつぶやき、そのとき初めて、堰を切ったように泪がこみあげてくる。山門の脇には、切下げ髪の若い女が一人、涙で腫れた眼をあげて、じっと二人を見送っていた——。松風の吹きわたる門に、亡き友への哀悼を託した、山本前期の名短編である。
登場人物
- 宗利 亡き友を悼む武士
- 八郎兵衛 宗利の亡き友
冒頭部(原文より)
その洞窟は谿谷にのぞむ断崖の上にあった。谷は深く、両岸にはかつて斧を入れたことのない森がみっしりと枝を差交わしているので、日光は真昼のほんのわずかのあいだ、それも弱々しく縞をなしてそっと射し込むだけであった。……里人たちはそれを「白狐の窟」と呼んでいた。そして其処へ近寄ると思わぬ災厄に遭うと云い伝えられていた。
「松風の門」山本周五郎(青空文庫)
末尾部(原文より)
――八郎兵衛、会いに来たぞ。宗利はその松風の音へ呼びかけるように、口のなかで呟いた。そのとき、初めて堰を切ったように泪がこみあげてきた。二人は松風の中を歩いて行った。だから、山門の脇のところに、切下げ髪にした武家風の若い女が一人、地に膝をついたまま、涙で腫れた眼をあげて、じっとかれらを見送っていたことには気がつかなかった。
「松風の門」山本周五郎(青空文庫)
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