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顎十郎捕物帳 小鰭の鮨(久生十蘭)のあらすじ・登場人物

鮨売のふれ声と消える小町娘

  • ミステリ
  • 歴史

久生十蘭 1940年(昭和15年)7月 「奇譚」

文字数
13,891字
読了目安
約28分
表記
新字新仮名
種別
小説
舞台
  • 東京都

この作品について

久生十蘭が1939年(昭和14年)から雑誌『奇譚』に六戸部力の名義で連載した「顎十郎捕物帳」の一編。長い顎から「顎十郎」と呼ばれる仙波阿古十郎は、もと北町奉行所の江戸一の捕物名人で、いまは相棒のとど助と辻駕籠をかついでいる。本編は、谷中藪下の菊人形でにぎわう秋の江戸が舞台。大店の美しい箱入娘たちが次々と家を抜け出して行方知れずになり、その直前にはきまって、いい声の小鰭の鮨売がふれて通っていた。江戸の物売りや芝居の風俗を色濃く描きながら、顎十郎が奇妙な神隠しの謎に挑む。

あらすじ

菊人形でにぎわう谷中藪下の蕎麦屋で、ひょろ松がアコ長こと顎十郎ととど助に泣きつく。ここ十日ほどのあいだに、大店の美しい箱入娘が四人も昼下がりに家を抜け出したまま行方知れずになり、その直前にはいつも小鰭の鮨売がふれて通ったという。ひょろ松は江戸じゅうの鮨売四十人をしょっぴいたものの、何の手がかりも出ない。娘たちがこっそり鮨を買い食いしていたと聞いた顎十郎は、割り箸の辻占に仕掛けがあるのではと、奉行所で割り箸を山と割らせるが空振りに終わる。顎十郎は、菊人形に坂東三津五郎の似顔で「小鰭の鮨売」の人形があったことに目をとめ、ひょろ松に探らせる。三津五郎は名題昇進の披露に新作の所作事『小鰭の鮨売』を出す予定で、町では、三津五郎が鮨売に化けて町を歩き、見破った者に印物をくれるという噂が立っていた。問い詰められた三津五郎は、役者は型を取るのに自分で鮨売にはならないと言って身の潔白を明かす。顎十郎はその言葉で、三津五郎に似た何者かが噂を流し、駆け出してきた娘を連れ去ったのだと見抜き、三津五郎本人に鮨売になってもらって犯人をおびき出す。六日目、霊岸寺の門から三津五郎に瓜二つの役者風の男が現れ、鮨売のあとをつけながら駆け出してきた娘を駕籠で連れ出す。後を追うと、寺島村の寮で五人の娘に囲まれていたのは、芝居狂いの薬種問屋の三男・又三郎だった。

登場人物

冒頭部(原文より)

   はやり物  谷中、藪下の菊人形。

「顎十郎捕物帳 小鰭の鮨」久生十蘭(青空文庫)

末尾部(原文より)

 本所横網町の薬種問屋、大松屋又蔵の三男の又三郎。これがひどい芝居気ちがい。三津五郎に似ていると近所の娘に騒がれるのでつけあがり、チラと耳にした評判と菊人形の三津五郎の小鰭の鮨売から思いついて、こんな大それたことをやった。  風呂や髪床で、でたらめな評判を振りまいて歩いたのも、言うまでもなく、この又三郎。 「それにしても、馬鹿にも智慧。じぶんが鮨売にならずに、役者の着つけでそのうしろから行き、濡衣のほうは鮨売にひっかぶせて、じぶんのほうはぬけぬけと娘を引きだそうという阿呆は阿呆なりによくかんがえたもンだ。小鰭の鮨売こそ、いい迷惑」

「顎十郎捕物帳 小鰭の鮨」久生十蘭(青空文庫)

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