半七捕物帳 一つ目小僧(岡本綺堂)のあらすじ・登場人物
空屋敷に現れた片目の小僧
- ミステリ
- 歴史
- 文字数
- 7,788字
- 読了目安
- 約16分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
この作品について
岡本綺堂「半七捕物帳」の一編。嘉永五年の十五夜の前日、四谷伝馬町の小鳥屋野島屋に旗本らしい侍が現れ、十五両の名鳥の鶉を買い求めて、日暮れに新宿の屋敷まで届けるよう命じる。小雨の夜、迎えの草履取りに案内されて荒れた屋敷に通された主人は、そこで片目の異形の茶坊主に出くわす。山の手の空屋敷を舞台にした怪談仕立ての発端から、半七が化け物の正体と鶉の行方を追う短い一話。
あらすじ
嘉永五年八月、四谷伝馬町の小鳥屋野島屋の主人喜右衛門は、細井と名乗る侍に十五両の鶉を売る約束をし、小雨の夜、迎えに来た草履取りの案内で新宿の新屋敷へ届けに行く。荒れた座敷で待たされていると、茶坊主が掛物を上げ下ろしし始め、咎めると振り向いたその顔は片目で、口が耳まで裂け、牙をむいていた。気を失った喜右衛門は、用人らしい男に「この屋敷には時々不思議がある」と言われて鶉を抱えて逃げ帰り、半月寝込む。治ってから鶉が駄鳥にすり替えられていると気づき、屋敷を訪ねると、そこはこの夏から空屋敷だった。山の手の空屋敷に商人を誘い込んで品物を奪う一味の新手と見た半七は、子分の松吉と屋敷を調べ、女中部屋の古畳に新しい酒の匂いを嗅ぎ取り、台所の空き俵の下から按摩の笛を拾う。江戸中の片目の小按摩を洗わせたところ、入谷の周悦という十四歳の小按摩が浮かぶ。周悦は馬道の下駄屋藤助に手なずけられて盗みを働いており、藤助が御家人糠目三五郎らと組んだ空屋敷の騙りで、絵の具で口を割り、象牙の箸を牙にした一つ目小僧の役を務めていたのだった。周悦の口から一味は残らず捕らえられた。
登場人物
- 半七 神田の岡っ引。空屋敷で起きた騙りと化け物の正体を探る
- 松吉 半七の子分。空屋敷の調べに同行する
- 喜右衛門 四谷伝馬町の小鳥屋野島屋の主人。十五両の鶉を届けに行き、化け物に出くわす
- 細井と名乗る侍 鶉を買い求め、新宿の屋敷へ届けさせる旗本風の男
- 周悦 入谷の長屋に住む十四歳の片目の小按摩
冒頭部(原文より)
嘉永五年八月のなかばである。四谷伝馬町の大通りに小鳥を売っている野島屋の店さきに、草履取りをつれた一人の侍が立った。あしたの晩は十五夜だというので、芒売りを呼び込んで値をつけていた亭主の喜右衛門は、相手が武家とみて丁寧に会釈した。野島屋はここらでも古い店で、いろいろの美しい小鳥が籠のなかで頻りに囀っているのを、侍は眼にもかけないような風で、ずっと店の奥へはいって来た。
「半七捕物帳 一つ目小僧」岡本綺堂(青空文庫)
末尾部(原文より)
「そうすると、その下駄屋と御家人と、小按摩の周悦と……。まだほかにも仲間がありましたか」 と、わたしは又訊いた。 「下駄屋は藤助という奴で、これは用人に化けていました。主人になったのは糠目三五郎という御家人、草履取りは渡り中間の権平という奴で、これだけは本物です。そのほかに馬淵金八という浪人が加わっていました。周悦はあとにも先にもたった一度、その一つ目小僧を勤めただけですが、当人はひどく面白がって、又なにかの役に使ってくれと、しきりに下駄屋をせびっていたそうです。なにしろ、一つ目小僧をさがしあてたので、それから口があいて、ほかの奴らも片っ端からみんな御用になってしまいました。つまらない怪談をやらなければ、もうちっと寿命があったかも知れないんですが、そいつらに取っては不仕合わせ、世間に取っては仕合わせでした」
「半七捕物帳 一つ目小僧」岡本綺堂(青空文庫)
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