岸田国士の名文
岸田国士の作品から、よく知られた一節を集めました。
3件
紙風船(一幕)
よし、それはわかつた。だが、おれたちは、日曜にどつかへ行く為めに、夫婦になつたわけぢやあるまい。うちにゐたつて、もう少し陽気な生活ができる筈だ。
岸田國士『紙風船』で、退屈な日曜を持て余す夫の言葉。結婚一年目の夫婦のすれ違いが、ありふれた口論のなかに浮かび上がる。
話は「する」ものよ。「ある」もんぢやないわ。
「どんな話がある」と言う夫に、妻が返す一言。何も起こらない会話劇のなかで、夫婦の関係の要点を鋭く突く台詞である。
牛山ホテル
君達御夫婦を除いて、どれもこれも、内地にゐさうな人間は一人だつてゐやしない。みんな少しづつ日本人でなくなつてゐるよ。
仏領インドシナの港町のホテルで、「丸で日本にゐるやうですね」と言う新任の三谷に、商社の旧主任・真壁が返す言葉。南方に流れ着いた日本人たちの姿を言い当てている。