正宗白鳥の名文

正宗白鳥の作品から、よく知られた一節を集めました。

3件

入江のほとり

そして、汽車に乗ると勝代の顔も辰男の顔も心に薄らいで、ただ入江のほとりの古めかしい大きな家の二階にあんな弟妹の住んでいるのが、憎みも愛もなく顧みられた。

帰省を終えた長兄・栄一が村を離れる場面。「憎みも愛もなく」という冷めた距離に、家族の思いが通い合わない白鳥らしい視線が表れる。

辰男は二三日テーブルの前に懐手をして腰を掛けたまま夜を過した。妹の頁をめくる音を聞きながら……。

『入江のほとり』の結び。兄が去ったあと、独学に励んでいた辰男が何もせずに夜を過ごす。言葉少なな描写に停滞した生活の重さが残る。

避病院

出船はその島を廻つて隱れ、入船はその島の角に現れ、夕立はその島の方から雨脚を急がせ、落日はよくその島を金色に烟らせた。……が、避病院が建てられてから島は、最早私の目にも繪のやうな感じは與へなくなつた。

湾内の小島に避病院が建てられたことを語るくだり。絵のように美しかった島の眺めが、子供の目に恐ろしいものへ変わる瞬間を描く。

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正宗白鳥