高村光太郎の名文
高村光太郎の作品から、よく知られた一節を集めました。
5件
道程
僕の前に道はない 僕の後ろに道は出來る
詩集の表題作の冒頭。踏み分けてきた足あとこそが道だと言い切り、自らを鼓舞する光太郎の代表作。
智恵子抄
智恵子は東京に空が無いといふ、 ほんとの空が見たいといふ。
「あどけない話」の冒頭。心を病んでいく妻のつぶやきを、そのまま受け止めて書きとめた夫のまなざしが、澄んだ二行に凝縮されている。
そんなにもあなたはレモンを待つてゐた かなしく白くあかるい死の床で わたしの手からとつた一つのレモンを あなたのきれいな歯ががりりと噛んだ
妻智恵子の臨終をうたった「レモン哀歌」の冒頭。レモンの香気と歯の音だけで、正気の戻る一瞬を鮮やかに留める。
智恵子は見えないものを見、 聞えないものを聞く。
「値ひがたき智恵子」の書き出し。心を病んだ妻を、見えないものを見る存在としてとらえ直し、深い愛と畏敬の念を込めて歌う。
人間商売さらりとやめて、 もう天然の向うへ行つてしまつた智恵子の うしろ姿がぽつんと見える。
「千鳥と遊ぶ智恵子」の一節。九十九里の浜で千鳥と遊ぶ妻の姿に、人の世を離れてしまった寂しさと、どこか清らかな美しさを見る。