高山樗牛の名文
高山樗牛の作品から、よく知られた一節を集めました。
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滝口入道
やがて來む壽永の秋の哀れ、治承の春の樂みに知る由もなく、六歳の後に昔の夢を辿りて、直衣の袖を絞りし人々には、今宵の歡曾も中々に忘られぬ思寢の涙なるべし。
高山樗牛『滝口入道』の名高い書き出し。平家の栄華の花見の宴を、やがて来る寿永の没落から振り返る美文調で、物語全体の哀れを予告する。
物の哀れも是れよりぞ知る、戀ほど世に怪しきものはあらじ。
横笛への恋に悩む斎藤時頼(滝口)の心を語る一節。武骨な若武者が恋を知り、やがて出家へ向かう物語の核心となる言葉。
美的生活を論ず
人若し吾人の言をなすに先だちて、美的生活とは何ぞやと問はば、吾人答へて曰はむ、糧と衣よりも優りたる生命と身體とに事ふもの是れ也と。
高山樗牛の評論『美的生活を論ず』の序言。聖書の言葉を引きつつ「美的生活」を定義し、本能の満足を説く議論の入口となる。
然れども生れたる後の吾人の目的は、言ふまでもなく幸福なるにあり。幸福とは何ぞや、吾人の信ずる所を以て見れば、本能の滿足、即ち是れのみ。本能とは何ぞや、人性本然の要求是れ也。人性本然の要求を滿足せしむるもの、茲に是を美的生活と云ふ。
『美的生活を論ず』の中心となる一節。幸福を「本能の満足」と言い切った大胆な主張が際立つ。