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滝口入道(高山樗牛)のあらすじ・登場人物

平家の世の武士と横笛

  • 歴史
  • 恋愛

高山樗牛 1894年(明治27年)4月 「読売新聞」

文字数
48,607字
読了目安
約1時間37分
表記
旧字旧仮名
種別
小説
舞台
  • 京都府
  • 和歌山県

この作品について

高山樗牛が1894年(明治27)に読売新聞の懸賞歴史小説へ匿名で応募し、入選して連載された作品。『平家物語』巻十の「横笛」に取材し、平家の武士・斎藤時頼と、建礼門院に仕える横笛との恋を軸にする。七五調をまじえた格調高い雅文体で書かれ、樗牛が文壇に知られるきっかけとなった。平家の盛衰を背景に、恋と忠義のあいだにある若者の姿が描かれる。

あらすじ

治承の春、驕る平家の花見の宴。小松殿(平重盛)に仕える武骨一辺の武士・斎藤瀧口時頼は、宴の舞を納めた建礼門院の雑仕女・横笛を一目見て、生まれて初めての恋に落ちる。武士の面目にかけて幾度も文を送るが、横笛からはついに一度の返事もない。実は同じ小松殿の侍・足助二郎重景もひそかに横笛に懸想し、老女を介して時頼を悪しざまに讒言し、時頼の父にまで讒言していたのだった。恋に迷うのを武士の恥と悟った時頼は、いっそ横笛を妻にと父・左衛門茂頼に願い出るが、身分違いと激しく拒まれ、世をはかなんで出家を決意、父に義絶される。世を捨てる前、時頼は主君・重盛に暇を乞う。重盛は平家没落の予感を語り、「心弱き維盛は、一朝事あらば妻子の愛に迷うて一門の恥を暴すやも知れぬ。頼むはそなた一人」と時頼に言い遺す。一方、自らの冷たさゆえに時頼を出家させたと知った横笛は、深い悔恨のうちに世を去る。嵯峨を経て高野山に上り「瀧口入道」となった時頼のもとへ、三年の後、屋島を抜け出した重盛の嫡男・維盛卿が足助重景を伴って訪れる。妻子に会いたい一心で落ちのびてきた維盛に、時頼は亡き主君の遺言を胸に、心を鬼にして「一門と生死を共にせよ」と涙ながらに諫言し、宿も貸さず追い返す。維盛と重景は和歌の浦に入水して果て、時頼もまた、その後を追うように松の根元で端座したまま自刃する。恋に世を捨てた身が、主家への忠義に殉じて散る——平家滅亡を背景に、時頼・横笛・維盛それぞれの悲運を格調高い雅文でうたいあげた、明治歴史小説の名作である。

冒頭部(原文より)

第一  やがて來む壽永の秋の哀れ、治承の春の樂みに知る由もなく、六歳の後に昔の夢を辿りて、直衣の袖を絞りし人々には、今宵の歡曾も中々に忘られぬ思寢の涙なるべし。

「滝口入道」高山樗牛(青空文庫)

末尾部(原文より)

 次の日の朝、和歌の浦の漁夫、磯邊に來て見れば、松の根元に腹掻切りて死せる一個の僧あり。流石汚すに忍びでや、墨染の衣は傍らの松枝に打ち懸けて、身に纏へるは練布の白衣、脚下に綿津見の淵を置きて、刀持つ手に毛程の筋の亂れも見せず、血汐の糊に塗れたる朱溝の鞘卷逆手に握りて、膝も頽さず端坐せる姿は、何れ名ある武士の果ならん。  嗚呼是れ、戀に望みを失ひて、世を捨てし身の世に捨てられず、主家の運命を影に負うて二十六年を盛衰の波に漂はせし、齋藤瀧口時頼が、まこと浮世の最後なりけり。

「滝口入道」高山樗牛(青空文庫)

名文

やがて來む壽永の秋の哀れ、治承の春の樂みに知る由もなく、六歳の後に昔の夢を辿りて、直衣の袖を絞りし人々には、今宵の歡曾も中々に忘られぬ思寢の涙なるべし。

高山樗牛『滝口入道』の名高い書き出し。平家の栄華の花見の宴を、やがて来る寿永の没落から振り返る美文調で、物語全体の哀れを予告する。

物の哀れも是れよりぞ知る、戀ほど世に怪しきものはあらじ。

横笛への恋に悩む斎藤時頼(滝口)の心を語る一節。武骨な若武者が恋を知り、やがて出家へ向かう物語の核心となる言葉。

原文を読む

原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。

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