南蛮寺門前(木下杢太郎)のあらすじ・登場人物
不可思議にこがれて泣くのぢや
- 歴史
- 恋愛
- 文字数
- 15,548字
- 読了目安
- 約31分
- 表記
- 新字旧仮名
- 舞台
- 京都府
この作品について
永禄末年の京都四条坊、南蛮寺の門前を舞台にした一幕物。木下杢太郎の代表的な戯曲で、南蛮渡りの異国情緒とキリシタン趣味を織りこんだ耽美的な一編である。ギヤマンの光、伴天連の鐘、そして仏門に入りながら「新なる不可思議」に憧れて狂う所化長順——明治末の南蛮ブームを象徴する作品として文学史に名を残す。
あらすじ
永禄末年の秋の日の暮れがた。京都四条坊にそびえる南蛮寺の高い石垣の下、門前の街道に童子たちが集まって歌っている。「夕やけ小やけ。摩訶陀の池の/さんしよの魚は/きらきら光る。/玻璃のふらすこ ちんたの酒は/きらきら光る」。そこへ盲目の姉と妹の順礼が通りかかり、聞きなれぬ音と光る寺の屋根に驚く。うかれ男や老いた男らが行き交い、この寺が伴天連の教えを説く南蛮寺であることが語られてゆく。やがて舞妓の白萩が現れる。かつて彼女——お鶴と恋仲であった若い僧・長順は、いま仏門にありながら心を乱していた。南蛮渡来の器物や音楽、目に見えぬ神をめぐる教え、その「新なる不可思議」に彼は憑かれたように惹きつけられているのだ。学頭と所化たちが読経しながら通りかかるなか、長順は「いつもこの不可思議にこがれて泣くのぢや」と口走り、ついに倒れ伏す。学頭は「天魔波旬の誘惑」と断じて去り、南無阿弥陀仏の声が遠ざかる。白萩が駆け寄って呼びかけると、長順は細く目を開いて言った。「やよ、鶴。昔其方に恋ひこがれた、あの時の心がいとしいわい、あの時あの恋がかなうたなら、何も不可思議は欲しうは無かつたのぢや」。門内の鐘の音とともに幕が下りる。
登場人物
- 長順 南蛮寺の「不可思議」に憑かれた若い所化
- 白萩(お鶴) 長順とかつて恋仲であった舞妓
- 学頭 所化たちを率いる僧
- 童子等・順礼 門前を行き交う人々
冒頭部(原文より)
童子等。(唄。) 夕やけ小やけ。 摩訶陀の池の さんしよの魚は きらきら光る。 玻璃のふらすこ ちんたの酒は きらきら光る。 鐘が鳴る。鐘がなる。 寺の御堂の 十字の金は きらきら光る。
「南蛮寺門前」木下杢太郎(青空文庫)
末尾部(原文より)
長順 (言葉を改めて)やよ、鶴。昔其方に恋ひこがれた、あの時の心がいとしいわい、あの時あの恋がかなうたなら、何も不可思議は欲しうは無かつたのぢや。(長順瞑目す) 門内の鐘声、小鐘声を以て終る。 幕
「南蛮寺門前」木下杢太郎(青空文庫)
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