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朱欒の花のさく頃(杉田久女)のあらすじ・登場人物

記憶にない故郷の庭を思う

杉田久女 1920年(大正9年)10月

文字数
2,220字
読了目安
約4分
表記
新字新仮名
種別
随筆
舞台
  • 鹿児島県

この作品について

杉田久女が、自分の生まれた鹿児島の家と、幼い頃の記憶にない朱欒の花とを重ね合わせて綴った短い随筆。西南戦争を経た両親の来歴、門司の果物店で見る朱欒や蜜柑から思い出される故郷の庭が、俳人の感性でつづられる。

あらすじ

久女の生まれた鹿児島の平の馬場の屋敷は、明治10年に鹿児島へ渡った父母が自ら設計した家で、九年母、朱欒、枇杷、柿などが植えてあったと、母から聞かされていたという。しかし幼い子供心には、城山も桜島の噴煙も、朱欒の花がこぼれ敷く庭の記憶もなく、ただ冠木門だけがうっすら頭に残っている。父は官員として先に鹿児島へ赴任し、西南戦争の戦火の中を命からがら逃れたことなど、一家の来歴が語られる。結びで、門司の桟橋通りの果物店で富有柿や林檎、バナナにまじって青みかんや台湾じゃぼんが並ぶのを見て、生まれた家の朱欒もゆたかに実り垂れているだろうと思い出す。(大正9年10月の稿)

冒頭部(原文より)

 私が生れた鹿児島の平の馬場の屋敷というのは、明治十年鹿児島にわたって十七年間も住っていた父母が、自ら設計して建てた家なので、九年母や朱欒、枇杷、柿など色々植えてあったと母からよく聞かされていた。  城山の見える其家で長兄をのぞく私達兄弟五人は皆生れたのであるが、無心の子供心には、あさ夕眺めた城山も、桜島の噴煙も、西郷どんも、朱欒の花のこぼれ敷く庭の記憶もなく只冠木門だけがうっすら頭にのこっている。

「朱欒の花のさく頃」杉田久女(青空文庫)

末尾部(原文より)

 つい四、五日前も門司の桟橋通りの果物店の前に佇んで富有柿や林檎やバナナに交って青みかんや台湾じゃぼんが並べられているのを見ると、私の生れたあの鹿児島の家の朱欒ももうゆたかに実り垂れているのであろうと思い出されるのであった。 (大正九年十月三十一日)

「朱欒の花のさく頃」杉田久女(青空文庫)

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