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石(尾崎放哉)のあらすじ・登場人物

生きている石ころを拾う

尾崎放哉 

文字数
2,518字
読了目安
約5分
表記
新字旧仮名
種別
随筆
舞台
  • 香川県

この作品について

尾崎放哉が、小豆島の石への愛着から生と死を思う随筆。大阪城の石垣に使われた島の良質な石、島の墓や石塔に見る死、そして庵に帰って拾い上げる「生きている石ころ」へ。孤独のなかで物を見つめた放哉の感覚がよく表れる。

あらすじ

土庄の町から一里ばかり西の海辺に千軒という村があり、島の人はセンゲと呼ぶ。ここは大変よい石が出る土地で、大阪城の石垣の大きな石も、この島の海から運んだものだと伝えられる、と放哉は書き始める。絵はがきには当時運び出されず海岸に投げ出されたままの大石が並んでいる。島はほとんど石からできているようなところで、石の話題に事欠かない。話は次第に、墓や石塔が立つ島の風景へ移り、地の下も上も死の世界のようだと語る。そして最後に、早く庵に帰って、なつかしい石ころ、生きている石ころを拾い上げて見たい、と結ぶ。

冒頭部(原文より)

 土庄の町から一里ばかり西に離れた海辺に、千軒といふ村があります。島の人はこれを「センゲ」と呼んで居ります。この千軒と申す処が大変によい石が出る処ださうでして、誰もが最初に見せられた時に驚嘆の声を発するあの大阪城の石垣の、あの素破らしい大きな石、あれは皆この島から、千軒の海から運んで行つたものなのださうです。今でも絵はがきで見ますと、其の当時持つて行かれないで、海岸に投げ出された儘で残つて居るたくさんの大石が磊々として並んで居るのであります。石、殆ど石から出来上つて居るこの島、大変素性のよい石に富んで居るこの島、……こんな事が私には妙に、たまらなく嬉しいのであります。現に、庵の北の空を塞いで立つて居るかなり高い山の頂上には――それは、朝晩常に私の眼から離れた事のない――実に何とも言はれぬ姿のよい岩石が、たくさん重なり合つて、天空に聳えて居るのが見られるのであります。亭々たる大樹が密生して居るがために黒いまでに茂つて見える山の姿と、又自ら別様の心持が見られるのであります。否寧ろ私は其の赤裸々の、素ツ裸の開けツ拡げた山の岩石の姿を愛する者であります。恐らく御承知の事と思ひます、此島が、かの耶馬渓よりも、と称せられて居る寒霞渓を、其の岩石を、懐深く大切に愛撫して居ることを――。

「石」尾崎放哉(青空文庫)

末尾部(原文より)

 庵は町の一番とつぱしの、一寸小高い処に立つて居りまして、海からやつて来る風にモロに吹きつけられた、只一本の大松のみをたよりにして居るのであります。庵の前の細い一本の道は、西南の方へ爪先き上りに登つて行きまして、私を山に導きます。そして、そこにある寂然たる墓地に案内してくれるのであります。此の辺はもう大分高みでありまして、そこには、島人の石塔が、白々と無数に林立してをります。そして、どれも、これも皆勿体ない程立派な石塔であります。申す迄も無く、島から出る好い石が、皆これ等の石塔に作られるのです。そして、雨に、風に、月に、いつも黙々として立ち並んでをります。墓地は、秋の虫達にとつては此上もないよい遊び場所なのでありますが、已に肌寒い風の今日此頃となりましては、殆ど死に絶えたのか、美しい其声もきく事が出来ません。只々、いつ迄もしんかんとして居る墓原。これ等無数に立ち並んで居る石塔も、地の下に死んで居る人間と同じやうに、みんなが死んで立つて居るのであります。地の底も死、地の上も死……。あゝ、私は早く庵にかへつて、わたしのなつかしい石ツころを早く拾ひあげて見ることに致しませう、生きて居る石ツころを――。

「石」尾崎放哉(青空文庫)

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