近松門左衛門の名文

近松門左衛門の作品から、よく知られた一節を集めました。

5件

曾根崎心中

此の世の名残夜も名残、死にに行く身を譬ふれば、あだしが原の道の霜、一足づゝに消えて行く、夢の夢こそ哀れなれ。

近松門左衛門の世話浄瑠璃、道行の名調子。死へ向かう二人を霜が消えゆく道にたとえる七五調は、日本語の名文の代表とされる。

あれ数ふれば暁の、七つの時が六つ鳴りて、残る一つが今生の、鐘の響きの聞きをさめ、寂滅為楽と響くなり。

道行の続き。暁の鐘を数えるうち、七つが六つ鳴って残る一つが今生で聞く最後の鐘になる、と時間の尽きる感覚を響かせる。

国性爺合戦

今鴫蛤の争ひによつて軍法の奥義一時に悟り開けたり。蛤は貝の堅きを頼んで鴫の来るを知らず。鴫は嘴の鋭に誇つて蛤の口を閉るを知らず。

近松『国性爺合戦』で、和藤内が浜辺で鴫と蛤の争いを見て軍法の奥義を悟る場面。漁夫の利の故事を劇的に仕立てた名場面。

心中天網島

頃は十月十五夜の、月にも見えぬ身の上は、心の闇の験かや。

近松門左衛門『心中天網島』の道行「名ごりの橋づくし」の一節。十月十五夜の月にも見えぬ身の上を、心の闇に重ねて嘆く。

女殺油地獄

まだ此の上に根性の直る薬には母が生肝を煎じて飲ませといふ医者あらば、身を八裂も厭はねども、一生夫の銭金、文字ひらなかちがへぬ身が、子故の闇に迷はされ、盗みして顕はれた。恥かしゆござる。

近松『女殺油地獄』で、放蕩息子の与兵衛を案じる母の告白。勘当した子に銭を届けようとした、子ゆえの闇に迷う親心が胸を打つ。

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近松門左衛門