国木田独歩の名文

国木田独歩の作品から、よく知られた一節を集めました。

6件

武蔵野

「武蔵野の俤は今わずかに入間郡に残れり」と自分は文政年間にできた地図で見たことがある。

江戸期の地図に記された一句を手がかりに書き起こす冒頭。失われゆく武蔵野の面影を自らの足で確かめて歩く、近代随筆の記念碑。

元来日本人はこれまで楢の類いの落葉林の美をあまり知らなかったようである。

松林ばかりを愛でてきた日本の文学に異を唱える一節。武蔵野の雑木林の美しさを、はじめて言葉にしてみせた。

武蔵野に散歩する人は、道に迷うことを苦にしてはならない。どの路でも足の向くほうへゆけばかならずそこに見るべく、聞くべく、感ずべき獲物がある。

武蔵野の美しさは当てもなく道を歩くことで得られると説く一節。名所ではなく、林や野の小道そのものに美を見出した独歩の新しい眼差しが表れている。

忘れえぬ人々

多摩川の二子の渡しをわたって少しばかり行くと溝口という宿場がある。その中ほどに亀屋という旅人宿がある。

三月の宿場の一夜から書き起こす冒頭。行きずりに見かけただけの他人の姿がなぜか忘れられないという、独歩の詩情あふれる短編。

忘れ得ぬ人は必ずしも忘れてかなうまじき人にあらず

無名の文学者大津が、自分の原稿の冒頭に書いた句として秋山に示す言葉。恩義ある人ではなく、旅先で一度すれ違っただけの人こそ忘れられないという、この作品の主題が凝縮されている。

牛肉と馬鈴薯

「喫驚したいというのが僕の願なんです」

理想と現実をめぐる青年たちの議論のなかで、岡本が明かす意外な願い。習慣に慣れきった心を揺さぶり、世界に素直に驚きたいという独歩の思想が込められる。

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国木田独歩