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雪之丞変化(三上於菟吉)のあらすじ・登場人物

舞台の上から仇を討つ

  • 歴史
  • 冒険

三上於菟吉 1934年(昭和9年)11月 「朝日新聞」

文字数
344,291字
読了目安
約11時間29分
表記
新字新仮名
種別
小説
舞台
  • 東京都

この作品について

1934年(昭和9年)から翌年にかけて「朝日新聞」に連載され、昭和の大衆小説を代表する作品となった三上於菟吉の長篇。長崎の商家を破滅させられた男の子が、上方歌舞伎の人気女形・中村雪之丞として江戸にのぼり、舞台の名声を武器に三人の仇を追いつめてゆく。復讐譚でありながら、女形という虚と実のあわいに立つ主人公が、憎む相手の娘に思われるという捩れを抱えるところに厚みがある。長谷川一夫・美空ひばりらによって幾度も映画化され、題名そのものが時代劇の代名詞となった。

あらすじ

晩秋の江戸。紫の野郎帽子に女姿で駒形を行く若い女形が、道ゆく娘たちの目を奪う。上方から下ってきた中村菊之丞一座の人気役者、中村雪之丞である。だが彼は生まれついての河原者ではない。長崎の大商人の子として育ちながら、土部三斎・広海屋・長崎屋の三人にそそのかされ、罪だけを背負わされて裏長屋で狂い死にした父を持つ。八幡宮の境内で奇人・孤軒先生の言葉に背を押され、押さえていた復讐の念が燃え立つ。剣の師・脇田一松斎のもとで鍛えた腕と、舞台の名声を武器に、雪之丞はひとりずつ仇に食い込んでゆく。義賊の闇太郎と女賊のお初が彼に力を貸し、浪人の門倉平馬が行く手を阻む。やがて土部三斎の娘・浪路が、父の仇と知らぬまま雪之丞に思いを寄せてしまい、復讐の道は思わぬ方へねじれていく。広海屋と長崎屋の身代を崩し、三斎の胸中を締め上げながら、雪之丞は最後の一手へと進む。宿願を果たした彼は江戸に別れを告げて西へのぼるが、その五年後、惜しまれながら若い生涯を閉じたと物語は結ぶ。

登場人物

冒頭部(原文より)

女がた 一  晩秋の晴れた一日が、いつか黄昏れて、ほんのりと空を染めていた夕映も、だんだんに淡れて行く頃だ。  浅草今戸の方から、駒形の、静かな町を、小刻みな足どりで、御蔵前の方へといそぐ、女形風俗の美しい青年――鬘下地に、紫の野郎帽子、襟や袖口に、赤いものを覗かせて、強い黒地の裾に、雪持の寒牡丹を、きっぱりと繍わせ、折鶴の紋のついた藤紫の羽織、雪駄をちゃらつかせて、供の男に、手土産らしい酒樽を持たせ、うつむき勝ちに歩むすがたは、手嫋女にもめずらしいたけさを持っている。  静かだとはいっても、暮れ切れぬ駒形通り、相当人の往き来があるが、中でも、妙齢の娘たちは、だしぬけに咲き出したような、この優すがたを見のがそう筈がない。

「雪之丞変化」三上於菟吉(青空文庫)

末尾部(原文より)

けれども、闇太郎は別だ。彼は、この興行がすめば、名残りを惜しみつつも、この大江戸から、ふたたび、坂地へと戻るであろう雪之丞の供をして、西へと上って行く男だ。  ――あッしも江戸ッ子だ。故郷は捨てにくいが、おまえさんのいなさるところなら、どこへでも行く気になりましたよ。  と、あの危急の晩、雪之丞にすすめられて、しおらしく手を突いた彼だったのである。  この物語は茲に了る。が、悲しい後話をつたえて置かねばならぬのは、かほど秀れた性格の持主雪之丞は、麗質を天にそねまれてか、後五年、京坂贔屓の熱涙を浴びながら、芳魂を天に帰したことである。あまりに一心に望んだ仕事を果したあとでは、人間は長く生き難いものと見えるのだ。 (終り)

「雪之丞変化」三上於菟吉(青空文庫)

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