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旗本退屈男(佐々木味津三)のあらすじ・登場人物

この眉間の傷が目に入らぬか

  • 歴史
  • 冒険

佐々木味津三 1929年(昭和4年)4月 「文芸倶楽部」

文字数
19,389字
読了目安
約39分
表記
新字新仮名
種別
小説
舞台
  • 東京都

この作品について

1929年(昭和4年)、「文芸倶楽部」に発表された「旗本退屈男」の第一話。眉間に三日月形の向こう傷、諸羽流正眼崩しの遣い手にして無役千二百石の直参旗本・早乙女主水之介が、ここに初めて世に出る。元禄の泰平にあって「退屈じゃ」が口癖の男は、吉原仲之町で四人の侍に絡まれている美しい若衆を救い、そこから大身旗本の奥に渦巻く企みへ踏み込んでゆく。市川右太衛門主演で三十本もの映画が作られ、テレビでも繰り返し演じられた国民的ヒーローの出発点である。

あらすじ

元禄の春の宵、吉原仲之町に野暮な叫び声があがった。肩のいかつい二本差しが四人がかりで、前髪立ちの若衆ひとりを取り囲み、「生ッ白い面しやがって」と無理無体に喧嘩を売っているのである。新造も禿も出前持も按摩までもが気を揉むなか、群衆の誰かが呟いた。「こういう時にこそ、長割下水のお殿様が来るといいのにな」。やがて大門口の方から、宗十郎頭巾に黒羽二重の着流し、素足に雪駄という長身の影が悠然と歩いてくる。本所割下水に住む直参旗本・早乙女主水之介、人呼んで旗本退屈男である。助けられた若衆は、さる大名家に仕える小姓の京弥。その美しさゆえに難儀を重ねる身であった。主水之介はこの若衆を妹の菊路に引き合わせようと連れ帰るが、やがて京弥は何者かに掠われてしまう。背後にいたのは、屋敷の奥に君臨するお杉の方と、剣客・赤谷伝九郎。居並ぶ刃の林に向かって、退屈男は懐手のまま、すいと一歩踏み出した。

登場人物

冒頭部(原文より)

一  ――時刻は宵の五ツ前。  ――場所は吉原仲之町。  それも江戸の泰平が今絶頂という元禄さ中の仲之町の、ちらりほらりと花の便りが、きのう今日あたりから立ちそめかけた春の宵の五ツ前でしたから、無論嫖客は出盛り時です。  だのに突如として色里に野暮な叫び声があがりました。

「旗本退屈男」佐々木味津三(青空文庫)

末尾部(原文より)

「わしの身体はごく都合がようてな、目に見て毒なものがあったり、耳に聞いて毒なものがあったりすると、じき俄盲目になったり、俄聾になったりするゆえ、遠慮せずこの目の前でずんと楽しめよ」  ――こんな兄はない。ウフフという退屈男の清々しい笑いがはぜて、のどかに夜があけました。そうしてこの小気味のいい男の小気味のいい物語は、これから始まるのです。

「旗本退屈男」佐々木味津三(青空文庫)

名文

退屈! 退屈! 不思議な退屈! 何が彼をそんなに退屈させたか?――言わずと知れたその原因は、古今に稀な元禄という泰平限りない時代そのものが、この秀抜な直参旗本を悉く退屈させたのでした。

佐々木味津三『旗本退屈男』(1929年)で、早乙女主水之介の異名の由来を語るくだり。腕の振るいどころのない泰平の世への退屈を、講談調の軽快な語りで畳みかける。時代劇の名物主人公が生まれた一節。

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