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右門捕物帖 血染めの手形(佐々木味津三)のあらすじ・登場人物

忍の城下に右腕を狙う辻斬り

  • ミステリ
  • 歴史

佐々木味津三 

文字数
26,332字
読了目安
約53分
表記
新字新仮名
種別
小説
舞台
  • 埼玉県

この作品について

佐々木味津三の捕物小説「右門捕物帖」全38話の第三話。口数の少ない南町奉行所の同心「むっつり右門」こと近藤右門と、おしゃべりな手下の伝六が難事件を解く連作で、本編は舞台を江戸から武州忍の城下へ移す。行き先も事情も明かされぬまま忍行きを命じられた右門は、虚無僧に身をやつして城下に入り、藩主・松平伊豆守から、家中の腕利きばかりが夜ごと右腕を切り落とされるというつじ切りの怪事を打ち明けられる。知恵伊豆との知恵比べめいたやりとりと、城下の夜の捕物が読みどころ。

あらすじ

生首事件の八日後、右門は理由も告げられぬまま武州忍への出張を命じられる。忍の城主で帰藩中の老中・松平伊豆守からの内密の招きと察した右門は、奉行から百両を借り、伝六ともども虚無僧に化けて城下へ入る。途中、旅のさるまわしの不審な振る舞いを見とがめるが、取り逃がしてしまう。伊豆守が明かしたのは、家中の腕利きばかりが袈裟掛けに襲われ、そろって右腕を切り落とされるというつじ切りだった。右門は伊豆守の帰国が将軍家の日光社参の下準備のためと見抜き、捜査を任される。世話係として小女のお弓が付けられたその夜、右門は警固の屋敷町を歩き、またも腕を切られた侍の家で、障子をばりばりとかく音と、女の肌のような香りが残っていたことをつかむ。音の正体はさるのしわざ。香りを手がかりに城下を洗った右門は、お弓が濠向こうの寺の養女で、唖の兄がいることを知る。社参の当日、将軍家と伊豆守の行列に地の下から襲いかかろうとした一味は、右門が百両で雇った替え玉の前に一網打尽となった。一味は豊臣恩顧の血を引く七人で、さるまわしに化けて藩中に入り込み、いざというときの用心に腕利きの右腕を奪っていたのだった。下手人は寺の美少年、生まれつき唖の一刀流の達人である。陰謀を探り出したのはお弓だったが、右門に恋した彼女は、兄に命じられた右門の暗殺をためらっていた。右門は武士のおきてとしてその思いを受けられぬと告げ、秘密を守ると約して、夜の城下を江戸へ去る。

登場人物

冒頭部(原文より)

1  ――今回は第三番てがらです。  しかし、今回の三番てがらは、前回と同様捕物怪異談は怪異談でございますが、少々ばかり方角が変わりまして、場所はおひざもとの江戸でなく、武州忍のご城下に移ります。江戸八丁堀の同心が不意になわ張りを離れて、方面違いも方面違いの武州くんだりまでも飛び移るんですから、なかにはさだめし不審に思われるおかたもございましょうが、不審に思った者はなにもあなたがたばかりではなく、本人のむっつり右門もまた同様で、あの生首事件――前回に詳しくご紹介いたしましたあの生首事件がかたづいてちょうど八日めのお昼すぎでした。いいこころもちで右門がお組屋敷の日当たりのいい縁側にとぐろを巻きながら、しきりと例のように無精ひげをまさぐっていると、突然数寄屋橋から急使があって、旅のしたくをととのえ即刻ご番所まで出頭しろという寝耳に水のお達しがあったものでしたから、めったには物に動じないむっつり右門も、少々ばかりめんくらったことでした。

「右門捕物帖 血染めの手形」佐々木味津三(青空文庫)

末尾部(原文より)

 右門は黙ってうなずいていましたが、伝六のそのことばを聞いてたえ入るもののようにひときわ泣きむせびだしたお弓のいじらしい姿をみると、決心したかのごとく、はっきりと最後のことばをいいました。 「のう、お弓どの、よくご納得なさるがよろしゅうござりますぞ。そなたがわたくしへの美しいお心根は、右門一生の思い出としてうれしくちょうだいいたしまするが、不幸なことに、そなたは豊臣恩顧のお血筋、わたくしは徳川の禄をはむ武士でござる。武道のおきてとして、そなたのお心根を受納することはなりかねまするによって、悲しい因縁とおあきらめなさりませえよ。のう、ようござりまするか。そのかわりに、そなたのことは右門一生の秘事として、堅く口外はいたしませぬによって、ご不幸なお兄上はじめお七人のかたがたの菩提なとお弔いなさるがよろしゅうござりまするぞ。のう、わかりましたか。おわかりになりましたか」  はい――というように、ちいさくかぶりをふって、嗚咽しながら身をよじらしているお弓のいじらしい姿を、じっとしばらく見守っていましたが、やがて右門はこらえかねたように、ぽろぽろと涙をぬぐいすてると、黙々として天蓋を面におおい、忍び去るようにして城下の町のやみに消え去りました。珍しや、こよいばかりはむっつりとうち沈んでうなだれた伝六をそのうしろに従えて、そしてふりかえりふりかえり、泣きくずれたままでいるお弓のほうを見返しながら、右門はあとにみれんの残るかのように、黙々と暗い城下の道のやみの中を江戸へ向けて立ち去りました。

「右門捕物帖 血染めの手形」佐々木味津三(青空文庫)

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