右門捕物帖 生首の進物(佐々木味津三)のあらすじ・登場人物
旗本の胸に夜ごと置かれる生首
- ミステリ
- 歴史
- 文字数
- 21,647字
- 読了目安
- 約43分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
この作品について
佐々木味津三の捕物小説「右門捕物帖」全38話の第二話。口数の少ない南町奉行所の同心「むっつり右門」こと近藤右門と、おしゃべりな手下の伝六が江戸の怪事件を解く連作で、本編からは右門の名声をねたむ先輩同心「あばたの敬四郎」が功名争いの相手として登場する。番町の旗本の寝所で、眠っている主人の胸の上に、片目をえぐられた生首が夜ごと置かれるという怪異。しかも旗本は事件をひた隠しにし、右門の面会さえ拒む。講談調の語りで、怪談めいた謎とライバルとの競り合いが描かれる。
あらすじ
南蛮幽霊の一件で右門の名が上がると、それをねたむ先輩同心、あばたの敬四郎が功名争いを挑んでくる。四月のある日、敬四郎のただならぬ様子を見とがめた右門が伝六に探らせると、番町の旗本小田切久之進の寝所で、眠っている主人の胸の上に、ざんばら髪の生首が三度にわたって置かれたという。女の首、座頭の首と変わっても、どれも左の目玉がえぐられていた。小田切はなぜか事件を内密にし、右門の面会を拒む。右門は老中松平伊豆守を訪ねて、小田切が小鳥の擬音の笛を将軍家に献じて新規に旗本に取り立てられた男だと知る。奉行所に預けられた首を改めると、塩づけの跡がある。右門は小塚ッ原の獄門首の帳面を調べ、首が刑死者のものだと突きとめる。伝六は、手討ちにされた片目の用人のせがれが怪しいとつかむが、そのならず者は敬四郎に先に捕らえられてしまう。だが首はなおも現れた。屋敷に仕える姉妹の姉がきつねつきだと聞いた右門は、奉行の御用駕籠を借りて御嶽行者に化け、屋敷に乗り込む。数を逆さに唱えさせるとっさの試しで、姉のきつねつきは偽物と見破られた。姉妹の父は、名笛を作り上げながら小田切に手柄を奪われて悶死した細工人で、復讐を言い残していた。姉妹は手討ちにされた片目の用人の首におびえる小田切の小心を突き、獄門番の非人に身を許して首を手に入れ、主人の胸に置き続けていたのである。非人は斬罪、小田切は江戸払いとなり、姉妹は軽い罪で放免された。右門は二人に、尼寺へでも行きなと静かに言い渡す。
登場人物
- 近藤右門 南町奉行所の同心。むっつり右門と呼ばれる口数の少ない切れ者
- 伝六 右門の手下の岡っ引き。おしゃべりだが聞き込みに走り回る
- あばたの敬四郎 右門の名声をねたむ先輩同心。功名を争って事件に先手を打つ
- 小田切久之進 番町の旗本。小鳥の笛を献じて取り立てられた。寝所に生首を置かれる
- 姉妹 小田切の屋敷に仕える二人の娘。姉はきつねつきと噂される
冒頭部(原文より)
1 ――むっつり右門第二番てがらです。 前回の南蛮幽霊騒動において、事のあらましをお話ししましたとおり、天下無類の黙り虫の変わり者にかかわらず、おどろくべき才腕を現わして、一世を驚倒させたあの戦慄すべき切支丹宗徒の大陰謀を、またたくうちにあばきあげ、真に疾風迅雷の早さをもって一味徒党を一網打尽にめしとり、八丁堀お組屋敷の同僚たちを胸のすくほど唖然たらしめて、われわれ右門ひいきの者のために万丈の気を吐いてくれたことはすでに前節で物語ったとおりでありますが、しかし人盛んなれば必ずねたみあり――。世のこと人のことは、とかく円満にばかりはいかないものとみえます。
「右門捕物帖 生首の進物」佐々木味津三(青空文庫)
末尾部(原文より)
――しかし、それほどのしんけんなふくしゅうに、貞操をふみにじってまでも行なったふくしゅうに、上のお慈悲が届かないはずはありませんでした。獄門番の非人は上つ方の女性を犯したうえに首を与えし罪軽からずとなして極刑の斬罪、旧罪をあばかれた小田切久之進の江戸払いは当然のことでしたが、ふたりの姉妹たちのうえには、人を騒がした罪は憎しとするも、根がかたき討ちにその動機を発していましたものでしたから、四日の入牢だけで軽く放免になりました。放免するとき、右門は姉妹たちに寂しい声で言い渡しました。 「ふたりとも尼寺へでもいきなよ――」 寂しい声ではあったが、情けあることばでそういいました。
「右門捕物帖 生首の進物」佐々木味津三(青空文庫)
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