丹下左膳 乾雲坤竜の巻(林不忘)のあらすじ・登場人物
離れれば哭く、乾雲坤竜の二刀
- 歴史
- 冒険
- 文字数
- 340,213字
- 読了目安
- 約11時間20分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
この作品について
1927年(昭和2年)から翌年にかけて「東京日日新聞」「大阪毎日新聞」に「新版大岡政談」として連載された、丹下左膳ものの第一作。関の孫六が鍛えた一対の名刀、乾雲丸と坤竜丸。離ればなれになると夜ごと啾々と哭き、必ず血の渦を巻き起こすという。この刀をめぐって、小野塚道場の若き遣い手・諏訪栄三郎、旗本鈴川源十郎、そして隻眼隻腕のニヒルな剣士・丹下左膳が入り乱れる。脇役として登場した左膳の圧倒的な人気により、大衆時代小説の歴史を変えた作品となった。
あらすじ
江戸・根津権現の裏、曙の里で神変夢想流の町道場を開く小野塚鉄斎の家には、関の孫六が鍛えた一対の名刀が伝わっていた。大を乾雲丸、小を坤竜丸という。この二刀は同じ場所にあるうちは無事だが、ひとたび離ればなれになると、丑満どきに啾々とむせび泣き、必ず人の血を見る波瀾を巻き起こすといわれていた。毎年、御玄猪の日に催される道場の大試合では、高点者に乾雲丸、次点者に坤竜丸の佩用が許される。その前夜、鉄斎は一年ぶりに刀を検めながら、娘の弥生に問うた。「そち、栄三郎をどう思う?」——そして、試合の優勝者に乾雲丸と娘を与えるという書き付けをしたためる。だがこの刀に執心する者は、鉄斎の弟子だけではなかった。奥州相馬の刀剣蒐集癖が発端となり、旗本鈴川源十郎の屋敷を舞台に、二刀の争奪は江戸を巻き込む渦となってゆく。その渦の中心に、右の目も右の腕も失った異形の剣士・丹下左膳が立つ。
登場人物
- 丹下左膳 右の目と右の腕を失った異形の剣士。乾雲丸を追って江戸に潜入する
- 小野塚鉄斎 曙の里で神変夢想流の道場を開く老剣客。乾雲坤竜の二刀を伝える
- 諏訪栄三郎 鉄斎の道場の若い遣い手。弥生と想い合っている
- 弥生 鉄斎の娘。十八歳
- 鈴川源十郎 本所の旗本。化物屋敷と噂される屋敷の主
- お艶 物語の渦に巻き込まれてゆく女
冒頭部(原文より)
夜泣きの刀 しずかに更けてゆく秋の夜。 風が出たらしく、しめきった雨戸に時々カサ! と音がするのは庭の柿の病葉が散りかかるのであろう。その風が隙間を洩れて、行燈の灯をあおるたびに、壁の二つの人影が大入道のようにゆらゆらと揺ぐ――。
「丹下左膳 乾雲坤竜の巻」林不忘(青空文庫)
末尾部(原文より)
この話し声を、わが身に縁のうすいことのようにボンヤリと聞きながら、お艶がふらふらと橋の欄干に寄ると、世は移り変わり、象はちがっても、我欲をあらわに渦をまく人の浪。 茜いろの夕陽が天地をこめて、お艶の影を、四辻の土に黒く長くななめに倒している。 河岸に灯がはいって……夢のよう。 江戸の祭りは、そのまま夜に入る。
「丹下左膳 乾雲坤竜の巻」林不忘(青空文庫)
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