アイロニーとは
- 分類
- 文体・技法
- 読み
- あいろにー
表面に述べたことと、本当に言おうとしていることとを食い違わせる表現。反語、皮肉ともいう。大失敗をした相手に「お見事」と言うように、字義とは反対の意味を相手や読者に読み取らせるのが基本の形で、その食い違いが批判やおかしみ、ときに悲しみを生む。語源は古代ギリシア語で、喜劇に登場する、とぼけて本心を隠す人物に由来するとされる。無知をよそおって問いを重ね、相手の思い込みを崩していくソクラテスの問答法は「ソクラテスのアイロニー」と呼ばれる。演劇や小説で、観客や読者は知っているのに登場人物だけが知らないために、人物の言葉や行動が別の意味を帯びることを「劇的アイロニー」といい、ソポクレスの『オイディプス王』がよく例に引かれる。願いや努力が思いもよらない形で裏切られる成り行きを「運命の皮肉」と呼ぶこともある。19世紀初めのドイツ・ロマン派は、作者が自分の作品を一段高いところから突き放して眺める態度を「ロマン的イロニー」と名づけ、日本では昭和10年代に保田與重郎ら日本浪曼派がこれを論じた。近代日本の作家では芥川龍之介が、『侏儒の言葉』で常識をひっくり返す警句を重ね、知的な皮肉を作風の特徴とした。若き日の理想を手放していく男の半生を淡々とたどる『或社会主義者』のように、叙述そのものが皮肉となる作品もある。一見矛盾した言い方のなかに真実を含ませる逆説(パラドックス)とは、隣り合う技法である。