或社会主義者(芥川龍之介)のあらすじ・登場人物
理想を失い「落伍者」となった男
- 文字数
- 1,424字
- 読了目安
- 約3分
- 表記
- 新字旧仮名
- 種別
- 小説
この作品について
芥川竜之介晩年の掌編。若き日に情熱を燃やした一人の社会主義者が、結婚し、会社に勤め、やがて理想を捨てて「落伍者」となっていく半生を、淡々と、そして皮肉を込めて描く。「あまりに人間的」な人間の姿を見つめた一編である。
あらすじ
彼は若い社会主義者だった。小官吏の父に勘当されかけても屈せず、仲間と団体をつくり、パンフレットに論文を発表した。とりわけ「リイプクネヒトを憶ふ」の一篇には、詩的な情熱がこもっていた。だが、学校を出て雑誌社に勤め、結婚し、小さな家に妻や小犬と暮らすうちに、彼はささやかな幸福に安らいでいく。やがて会社の重役の信用を得て、より大きな家に住み、子を育てるようになった彼の情熱は、いつしかどこかへ消えていた。「東洋のあきらめ」がいつも彼を救い出すのだ。彼は確かに落伍者だった——だが皮肉なことに、彼がかつて書いた「リイプクネヒトを憶ふ」の一篇は、財産を失った大阪のある青年を動かし、その青年を社会主義者にしていた。理想を失った男の半生を、「人間的に、恐らくは余りに人間的に」という言葉で結ぶ、芥川晩年の鋭い掌編である。
冒頭部(原文より)
彼は若い社会主義者だつた。或小官吏だつた彼の父はそのためにかれを勘当しようとした。が、彼は屈しなかつた。それは彼の情熱が烈しかつたためでもあり、又一つには彼の友だちが彼を激励したためでもあつた。
「或社会主義者」芥川龍之介(青空文庫)
末尾部(原文より)
彼は確に落伍者だつた。が、彼の「リイプクネヒトを憶ふ」は或青年を動かしてゐた。(……)その青年は彼の論文を読み、それを機縁に社会主義者になつた。が、勿論そんなことは彼には全然わからなかつた。彼は今でも籐椅子により、一本の葉巻を楽しみながら、彼の青年時代を思ひ出してゐる、人間的に、恐らくは余りに人間的に。
「或社会主義者」芥川龍之介(青空文庫)
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