心境小説とは

分類
形式・ジャンル
読み
しんきょうしょうせつ

私小説の一種で、劇的な事件や赤裸々な告白よりも、日常の身辺に向き合う作者の澄んだ心境・境地の表出を主眼とする小説。大正期の文壇で、作者の人格の深まりがそのまま作品の価値となる純文学の理想形として尊重された。志賀直哉が湯治先で目にした小さな生き物の生死への静かな観照を綴った『城の崎にて』(大正6年)が典型とされる。久米正雄は評論『「私」小説と「心境」小説』(大正14年)で、トルストイやドストエフスキーの大作もつまるところ「偉大なる通俗小説」であり、作者が自己をそのまま差し出す「私」小説・心境小説こそ散文芸術の神髄であると説いて、この語を文壇に定着させた。佐藤春夫『田園の憂鬱』(大正7年)の倦怠の抒情、梶井基次郎『冬の蠅』(昭和3年)、芥川龍之介晩年の『蜃気楼』(昭和2年)などにも、心境小説の系譜は流れている。

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