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蜃気楼(芥川龍之介)のあらすじ・登場人物

見えたのは、砂に揺れる一すじの青

  • 心理

芥川龍之介 1927年(昭和2年)3月 「婦人公論」

文字数
4,626字
読了目安
約9分
表記
新字新仮名
種別
小説
舞台
  • 神奈川県

この作品について

鵠沼の海岸へ蜃気楼を見に出かけた「僕」たちが見たのは、砂浜にゆらめく一すじの青い帯だけだった。水葬された者の名札、夜の浜辺にともるマッチの火、袂で鳴る鈴の音——晩年の芥川龍之介が、日常の断片に忍び寄る不安を淡々と書きとめた心境小説。

あらすじ

ある秋の昼ごろ、「僕」は東京から来た大学生のK君、それに近所のO君を誘って、鵠沼の海岸へ蜃気楼を見に出かける。砂の深い道に残る牛車の轍にさえ、僕は圧迫に近いものを感じてしまう。まだ僕は健全じゃないね——。砂浜の向こうに見えたのは、リボンほどの幅にゆらめく一すじの青い帯だけだった。帰り道、O君が砂から拾い上げたのは、横文字を並べた黒枠の木札。水葬された死骸に付けられていたものらしく、一九〇六から一九二六の数字が読める。二十歳ばかりで船中に死んだ混血児の青年を、僕は想像する。夜、今度は妻とO君の三人で同じ浜へ出る。星も見えない暗闇のなか、O君のともす一本のマッチが貝殻や海藻や、半ば埋まった遊泳靴を照らし出す。どこかで鈴の音がする——それは妻の袂の中の、子どものおもちゃだった。夢に出てきた運転手の顔が、三、四年前に一度会っただけの婦人記者のものだったという話。意識の閾の外にもいろんなものがある、マッチに火をつけて見るといろんなものが見えるようなものだ——。何も起こらないまま不安だけが漂い、僕らは半開きになった門の前に帰り着く。

冒頭部(原文より)

一  或秋の午頃、僕は東京から遊びに来た大学生のK君と一しょに蜃気楼を見に出かけて行った。鵠沼の海岸に蜃気楼の見えることは誰でももう知っているであろう。現に僕の家の女中などは逆まに舟の映ったのを見、「この間の新聞に出ていた写真とそっくりですよ。」などと感心していた。

「蜃気楼」芥川龍之介(青空文庫)

末尾部(原文より)

「おじいさんの金婚式はいつになるんでしょう?」 「おじいさん」と云うのは父のことだった。 「いつになるかな。………東京からバタはとどいているね?」 「バタはまだ。とどいているのはソウセェジだけ。」  そのうちに僕等は門の前へ――半開きになった門の前へ来ていた。

「蜃気楼」芥川龍之介(青空文庫)

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