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冬の日(梶井基次郎)のあらすじ・登場人物

病む青年が見つめる冬の光

  • 心理

梶井基次郎 1927年(昭和2年)2月 「青空」

文字数
11,124字
読了目安
約22分
表記
新字新仮名
種別
小説
舞台
  • 東京都

この作品について

1927年2月と4月、同人誌「青空」に発表された梶井基次郎の短編。冬至の近づく頃、肺を病む青年・堯は、間借りの二階から木々の葉が落ちてゆくのを眺めている。床を離れても、陽の当たる時間はすぐに過ぎてしまう。暮らしへの意欲を失った彼の目に、血の色や窓外の影はかえって鮮明に映る。季節の情景は心を慰めるものとばかりはならず、消えかかる日差しが焦りや悔いを呼ぶ。母から届く手紙も、互いを思うがゆえの苦しさを伝えてくる。大きな事件を追うより、見る、聞く、思い出すという細かな動きを重ねて、病む人間の時間を描く作品。石粒の影から遠い建物までが独特の比喩で捉えられ、部屋の内と外の風景が堯の感覚を通して結びつく。梶井の文章の鋭さは、澄んだ冬景色の美しさと、それを見つめる者の孤独を同時に立ち上がらせている。

あらすじ

季節は冬至に間もない。肺を病む堯の窓からは、日ごとに葉を落としてゆく木々が見える。洗面のたびに吐く痰には血が混じるようになり、堯は生きる熱意をまるで感じなくなっていた。空を涵してゆく日蔭、路地に射す最後の陽射し、闇の中でしか自分を取り戻せない夜。母からの手紙は医者に行けと繰り返すが、堯の心はそれに応えられない。友人の来訪にも、街の雑踏にも、彼の孤独は救われない。冬の脆い陽射しは、彼が床を出て一時間と経たぬうちに翳ってしまう。ある歳晩の夕暮れ、「あああ大きな落日が見たい」と、堯は遠い展望を求めて知らない町を歩き続ける。だがどの見晴らしにも大きな屋根の影絵があり、隠された太陽の姿だけが切なく心に映る。夕焼空に、浮雲が次から次へ美しく燃えては死灰になってゆく。「こんなに美しいときが、なぜこんなに短いのだろう」。にわかに重い疲れが彼に凭りかかり、知らない町の知らない町角で、堯の心はもう再び明るくはならなかった。

登場人物

冒頭部(原文より)

季節は冬至に間もなかった。堯の窓からは、地盤の低い家々の庭や門辺に立っている木々の葉が、一日ごと剥がれてゆく様が見えた。ごんごん胡麻は老婆の蓬髪のようになってしまい、霜に美しく灼けた桜の最後の葉がなくなり、欅が風にかさかさ身を震わすごとに隠れていた風景の部分が現われて来た。

「冬の日」梶井基次郎(青空文庫)

末尾部(原文より)

青く澄み透った空では浮雲が次から次へ美しく燃えていった。みたされない堯の心の燠にも、やがてその火は燃えうつった。 「こんなに美しいときが、なぜこんなに短いのだろう」  彼はそんなときほどはかない気のするときはなかった。燃えた雲はまたつぎつぎに死灰になりはじめた。彼の足はもう進まなかった。 「あの空を涵してゆく影は地球のどの辺の影になるかしら。あすこの雲へゆかないかぎり今日ももう日は見られない」  にわかに重い疲れが彼に凭りかかる。知らない町の知らない町角で、堯の心はもう再び明るくはならなかった。

「冬の日」梶井基次郎(青空文庫)

原文を読む

原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。

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