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ア、秋(太宰治)のあらすじ・登場人物

断章でつづる秋の掌編

太宰治 1939年(昭和14年)10月 「若草」

文字数
1,494字
読了目安
約3分
表記
新字新仮名
種別
随筆

この作品について

太宰治が1939年(昭和14年)、雑誌「若草」に発表した掌編随筆。「本職の詩人ともなれば、いつどんな注文があるか、わからない」と嘯く語り手が、「秋について」の注文に備えて用意した断片的なノートを読み解いていく、という趣向の一篇。「トンボ。スキトオル。」「コスモス、無残。」といった短いメモに註釈を添えるうち、大震災の焼け跡の記憶や、悲惨と情慾のうらはらな痛みがふと立ちのぼる。わずか千数百字のなかに機知と哀感を凝縮した、若き太宰の言葉の技巧が光る小品である。

あらすじ

本職の詩人ともなれば、いつどんな注文が来るかわからないから、常に詩の材料を準備しておくものだ——語り手はそう言って、「秋について」の注文に備えて用意してある「ア」の部の引き出しを開ける。愛、青、赤……と並んだノートから「あき」の一冊を取り出し、そこに走り書きされた断片を一つずつ読み解いていく。「トンボ。スキトオル。」「秋ハ夏ノ焼ケ残リサ。」「コスモス、無残。」——短い言葉のメモに、詩人はいちいち註釈を加える。あるものは、古いグラフ誌で見た大震災の焼け跡にひとりしゃがむ女の写真から、悲惨と情慾のうらはらな痛みを語り出し、あるものは「秋は夏と同時にやって来る」というひそかな季節観へと展開する。秋を、夏のうちに身支度をととのえてせせら笑う「ずるい悪魔」だと言ってのけるくだりには、太宰らしい諧謔がにじむ。やがて言葉は、荒れ果てた秋の海水浴場の残骸や、意味のとりにくい会話の断片へとうつろい、脈絡のないメモのまま閉じられる。断章の集積という形式そのものを一篇に仕立てた、若き太宰の感受性と技巧がきらめく掌編である。

冒頭部(原文より)

 本職の詩人ともなれば、いつどんな注文があるか、わからないから、常に詩材の準備をして置くのである。 「秋について」という注文が来れば、よし来た、と「ア」の部の引き出しを開いて、愛、青、赤、アキ、いろいろのノオトがあって、そのうちの、あきの部のノオトを選び出し、落ちついてそのノオトを調べるのである。  トンボ。スキトオル。と書いてある。

「ア、秋」太宰治(青空文庫)

末尾部(原文より)

 また、こんなのも、ある。  芸術家ハ、イツモ、弱者ノ友デアッタ筈ナノニ。  ちっとも秋に関係ない、そんな言葉まで、書かれてあるが、或いはこれも、「季節の思想」といったようなわけのものかも知れない。  その他、  農家。絵本。秋ト兵隊。秋ノ蚕。火事。ケムリ。オ寺。  ごたごた一ぱい書かれてある。

「ア、秋」太宰治(青空文庫)

名文

秋ハ夏ト同時ニヤッテ来ル。と書いてある。  夏の中に、秋がこっそり隠れて、もはや来ているのであるが、人は、炎熱にだまされて、それを見破ることが出来ぬ。

太宰治『ア、秋』(1939年)より。詩人が「秋」の部のノートをめくるという趣向で、秋は夏と同時に来ると書きつける。夏のうちに秋の気配を見破る感覚の鋭さを、軽妙な語りに包んだ小品。

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