アプリで読む

無料・登録不要

花吹雪(太宰治)のあらすじ・登場人物

花吹雪のなかの黄村先生

  • 風刺

太宰治 

文字数
16,964字
読了目安
約34分
表記
新字新仮名
種別
小説
舞台
  • 東京都

この作品について

太宰治が、黄村先生を主人公に書いた短編の一つ。『黄村先生言行録』に続くもので、「男子の真価は武術」と説く先生の座談を語り手が速記し、森鷗外の乱闘や宮本武蔵の『独行道』を引きながら、自分のだらしなさを十九箇条に並べて自嘲する。最後に、先生から届いた、桜の花吹雪の中での格闘の報告が置かれる。

あらすじ

花吹雪というと勿来の関の八幡太郎義家を思い出すが、この物語の主人公は桜の花吹雪を浴びて闘う、頗る弱い人物、黄村先生である。語り手は、先日訪ねた阿佐ヶ谷の先生の宅で、四人の大学生を相手に気焔を上げる先生の座談を速記する。女はうぶ、男は武術で、武術を怠ってきたから文人は卑屈なのだと先生は説く。語り手は感じ入り、鴎外が宴会で新聞記者と取っ組み合いをしたという話を全集で確かめ、キリストや釈迦、源氏の武人の逸話を引いて、自分の意気地のなさを恥じる。武蔵の「独行道」十九箇条にならって、自分のだらしない十九箇条を白状する。男子の面目を武術に見て、道場の窓の下から産業戦士の稽古を羨ましく覗く日々が続く。やがて黄村先生からの手紙が届く。先生は弓の道場で自分の弦に耳を打たれて痛い目に遭い、帰りの屋台で近所の老画伯に「隣組の注意人物」と嘲られ、桜の花吹雪の中で入れ歯をはずして殴り合いに挑む。ところが相手は張り合いなく立ちつくし、花びらに埋もれた入れ歯を二人で四つ這いになって探し、画伯が見つけてくれる。先生は、頬を差し出して殴り返され、一時失神しかける。

登場人物

冒頭部(原文より)

花吹雪という言葉と同時に、思い出すのは勿来の関である。花吹雪を浴びて駒を進める八幡太郎義家の姿は、日本武士道の象徴かも知れない。けれども、この度の私の物語の主人公は、桜の花吹雪を浴びて闘うところだけは少し義家に似ているが、頗る弱い人物である。同一の志趣を抱懐しながら、人さまざま、日陰の道ばかり歩いて一生涯を費消する宿命もある。全く同じ方向を意図し、甲乙の無い努力を以て進みながらも或る者は成功し、或る者は失敗する。けれども、成功者すなわち世の手本と仰がれるように、失敗者もまた、われらの亀鑑とするに足ると言ったら叱られるであろうか。人の振り見てわが振り直せ、とかいう諺さえあるようではないか。この世に無用の長物は見当らぬ。いわんや、その性善にして、その志向するところ甚だ高遠なるわが黄村先生に於いてをやである。黄村先生とは、もとこれ市井の隠にして、時たま大いなる失敗を演じ、そもそも黄村とは大損の意かと疑わしむるほどの人物であるけれども、そのへまな言動が、必ずわれらの貴い教訓になるという点に於いてなかなか忘れ難い先生なのである。

「花吹雪」太宰治(青空文庫)

末尾部(原文より)

以上は、わが武勇伝のあらましの御報に御座候えども、今日つらつら考えるに、武術は同胞に対して実行すべきものに非ず、弓箭は遠く海のあなたに飛ばざるべからず、老生も更に心魂を練り直し、隣人を憎まず、さげすまず、白氏の所謂、残燈滅して又明らかの希望を以て武術の妙訣を感得仕るよう不断精進の所存に御座候えば、卿等わかき後輩も、老生のこのたびの浅慮の覆轍をいささか後輪の戒となし給い、いよいよ身心の練磨に努めて決して負け給うな。祈念。

「花吹雪」太宰治(青空文庫)

原文を読む

原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。

青空文庫の図書カード

同じ作家の作品

近い作品