雀(太宰治)のあらすじ・登場人物
雀じゃないわよと娘は言った
- 心理
- 文字数
- 6,641字
- 読了目安
- 約13分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 青森県
この作品について
太宰治が、敗戦直後の津軽を舞台に書いた短編。帰郷する軽便鉄道で、傷痍軍人となった小学校の同級生と再会した語り手が、酒を酌み交わす夜に、戦地ではなく療養先の伊東温泉で起きた小さな出来事を聞く。空気銃でブリキの雀を撃つ射的場の場面と、そこから芽生えた戦争への嫌悪が、静かな語りで描かれ、結びの一言が余韻を残す。
あらすじ
八月に津軽の金木町へ来た語り手は、ひと月ほどして五所川原へ酒と煙草を買いに出る。帰りの軽便鉄道で声をかけてきたのは、小学校の同級生の加藤慶四郎君だった。白衣に傷痍軍人の徽章をつけ、戦地での病気で伊東温泉に半年療養し、今から家へ帰るところだという。語り手は買ったばかりの一升の清酒を無理に持たせ、三日後に家を訪ねる。慶四郎君は、三年半の兵隊生活のうち語りたいのは伊東での最後の半年だけだと言い、一つの事件を打ち明ける。空襲が近づく初夏のこと、療養所の向かいの射的場で、人気者の娘ツネちゃんに声をかけられた彼は、ブリキの雀を空気銃で撃つが、なぜか当たらない。苛立ちのあまり、傍らにしゃがんだ娘の膝を撃ってしまい、「雀じゃないわよ」と言われて全身に冷水を浴びたように立ちすくむ。手当ての間に向けられた娘の父親の憎悪の眼を忘れられず、その日から、人の皮膚に傷をつけるのがいやになり、戦争がいやになったという。話を聞き終えた語り手は、お酌に来た彼の細君が片足を引きずって歩くのを見て、「ツネちゃんじゃないか」と思わず口にするが、慶四郎君は「馬鹿、何を言ってやがる」と、足にまめができたのだと笑う。
登場人物
- 私 津軽の金木町に来た語り手の作家
- 加藤慶四郎 小学校の同級生。傷痍軍人
- ツネちゃん 伊東の射的場の娘
- 慶四郎の細君 片足を引きずって歩く
冒頭部(原文より)
この津軽へ来たのは、八月。それから、ひとつきほど経って、私は津軽のこの金木町から津軽鉄道で一時間ちかくかかって行き着ける五所川原という町に、酒と煙草を買いに出かけた。キンシを三十本ばかりと、清酒を一升、やっと見つけて、私はまた金木行の軽便鉄道に乗った。 「や、修治。」と私の幼名を呼ぶ者がある。 「や、慶四郎。」と私も答えた。 加藤慶四郎君は白衣である。胸に傷痍軍人の徽章をつけている。もうそれだけで私には万事が察せられた。 「御苦労様だったな。」私のこんな時の挨拶は甚だまずい。しどろもどろになるのである。 「君は?」 「戦災というやつだ。念いりに二度だ。」 「そう。」
「雀」太宰治(青空文庫)
末尾部(原文より)
慶四郎君の告白の終りかけた時、細君がお銚子のおかわりを持って来て無言で私たちに一ぱいずつお酌をして静かに立ち去る。そのうしろ姿をぼんやり見送り、私は愕然とした。片足をひきずり気味にして歩いている。 「ツネちゃんじゃないか。」 その細君は、津軽訛りの無い純粋の東京言葉を遣っていた。酔いのせいもあって、私は奇妙な錯覚を起したのである。ツネちゃんは、色白で大柄なひとだったそうではないか。 「馬鹿、何を言ってやがる。足か。きのう木炭の配給を取りに一里も歩いて足に豆が出来たんだとか言っている。」
「雀」太宰治(青空文庫)
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