東京だより(太宰治)のあらすじ・登場人物
工場の事務所で出会った少女
- 心理
- 文字数
- 2,633字
- 読了目安
- 約5分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
この作品について
太宰治の短編。戦時下の東京で働く少女たちの姿を、読者に語りかけるように綴る。徴用されて工場に勤める画家の友人に小説集の表紙絵を頼みに通った語り手が、事務所で働く少女たちの中に、ひとりだけ忘れがたく美しい少女を見いだす。その理由を知ったときの驚きを記す、静かな掌編である。
あらすじ
戦時下の東京には働く少女があふれ、二列縦隊で産業戦士の歌を歌いながら行進する。男の子と同じ服装で、下駄の鼻緒の赤だけに女の子の匂いが残り、みな同じような顔に見える。語り手の友人の画家が徴用されて工場に勤めることになり、小説集の表紙の絵を描きたいと言う。腕前は褒められたものではないが、徴用工としての意気が上がるならと、語り手は工場へ通って下絵の相談をする。事務所で友人を待つあいだ、十人ほどの少女の中に、特徴がないはずなのに、黒いあげは蝶の中の緑の蝶のように美しい一人がいることに気づく。血筋のせいかと勝手に考えるが、それは違っていた。或る夕方、三度目の訪問を終えて門を出ると、作業を終えた少女たちが合唱しながら出てくる。その少女は一人遅れて松葉杖をついて歩いてくる。生れつき足が悪いらしく、語り手は目が熱くなる。少女は黙って前を通り過ぎていく。
冒頭部(原文より)
東京は、いま、働く少女で一ぱいです。朝夕、工場の行き帰り、少女たちは二列縦隊に並んで産業戦士の歌を合唱しながら東京の街を行進します。ほとんどもう、男の子と同じ服装をしています。でも、下駄の鼻緒が赤くて、その一点にだけ、女の子の匂いを残しています。どの子もみんな、同じ様な顔をしています。年の頃さえ、はっきり見当がつきません。全部をおかみに捧げ切ると、人間は、顔の特徴も年恰好も綺麗に失ってしまうものかも知れません。東京の街を行進している時だけでなく、この女の子たちの作業中あるいは執務中の姿を見ると、なお一層、ひとりひとりの特徴を失い、所謂「個人事情」も何も忘れて、お国のために精出しているのが、よくわかるような気がします。
「東京だより」太宰治(青空文庫)
末尾部(原文より)
私は立ちどまって、その元気な一隊を見送りました。そうして私は、愕然としました。あの事務所の少女が、みなからひとりおくれて、松葉杖をついて歩いて来るのです。見ているうちに、私の眼が熱くなって来ました。美しい筈だ、その少女は生れた時から足が悪い様子でした。右足の足首のところが、いや、私はさすがに言うに忍びない。松葉杖をついて、黙って私の前をとおって行きました。
「東京だより」太宰治(青空文庫)
原文を読む
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