愛読書の印象(芥川龍之介)のあらすじ・登場人物
芥川の読書遍歴を語る随筆
- 文字数
- 970字
- 読了目安
- 約2分
- 表記
- 新字旧仮名
- 種別
- 随筆
この作品について
芥川龍之介が1920年(大正9年)、雑誌「文章倶楽部」に寄せた短い随筆。少年時代からの愛読書をたどりながら、みずからの読書遍歴と嗜好の変遷を率直に語る。子どものころに親しんだ「西遊記」「水滸伝」への愛着にはじまり、徳冨蘆花や高山樗牛、夏目漱石や泉鏡花、さらにワイルドやゴーチエ、ストリンドベルクといった西欧文学へと、関心が移りゆくさまが綴られる。近年は「静かな力のある書物」に最も心惹かれるという述懐に、円熟へ向かう芥川の心境の変化がのぞく、簡潔ながら味わい深い一文である。
あらすじ
「子供の時の愛読書は『西遊記』が第一である」——芥川龍之介はそう書き起こし、自身の読書の歴史を率直にたどっていく。幼いころ夢中になった「西遊記」「水滸伝」への変わらぬ愛着を語り、一時は水滸伝の豪傑百八人の名をすべて諳んじていたと打ち明ける。中学に入る前後には徳冨蘆花「自然と人生」や高山樗牛「平家雑感」を、また夏目漱石「猫」や泉鏡花「風流線」、斎藤緑雨を愛読したという。長じてのちは、ワイルドやゴーチエのような絢爛たる小説を好んだが、それは日本の自然主義文学への反動でもあった。やがて高等学校を出るころ、趣味や物の見方に大きな転回が訪れ、力を欠いた芸術はすべて瓦礫のように感じられて、ストリンドベルクに傾倒する。しかしその「燃えるやうな力の崇拝」もしだいに薄れ、いまは「静かな力のある書物」——スタンダールやメリメ、西鶴などに最も心を惹かれるようになった、と芥川は結ぶ。一人の作家の精神が何によって形づくられたかを垣間見せる、飾らない自己省察の一文である。
冒頭部(原文より)
子供の時の愛読書は「西遊記」が第一である。これ等は今日でも僕の愛読書である。比喩談としてこれほどの傑作は、西洋には一つもないであらうと思ふ。名高いバンヤンの「天路歴程」なども到底この「西遊記」の敵ではない。それから「水滸伝」も愛読書の一つである。これも今以て愛読してゐる。
「愛読書の印象」芥川龍之介(青空文庫)
末尾部(原文より)
序ながら附け加へておくが、此間「ジヤンクリストフ」を出して読んで見たが、昔ほど感興が乗らなかつた。あの時分の本はだめなのかと思つたが、「アンナカレニナ」を出して二三章読んで見たら、これは昔のやうに有難い気がした。
「愛読書の印象」芥川龍之介(青空文庫)
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