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あの頃の自分の事(芥川龍之介)のあらすじ・登場人物

新思潮の仲間と過ごした日々の回想

芥川龍之介 1919年(大正8年)1月 「中央公論」

文字数
15,734字
読了目安
約31分
表記
新字旧仮名
種別
随筆
舞台
  • 東京都

この作品について

芥川竜之介が、大学時代の自分とその周囲を「ありのまま」に描こうとした回想的な作品。同人雑誌「新思潮」を興した松岡譲・久米正雄・菊池寛・成瀬正一といった友人たちとの、青春の日々がいきいきと綴られる。

あらすじ

「以下は小説と呼ぶ種類のものではないかも知れない」——芥川はそう断って、四、五年前の自分とその周囲を、できるだけこだわらず、ありのままに書きとめる。舞台は東京帝国大学。同人雑誌「新思潮」の創刊を控えた芥川は、成瀬、松岡、久米、菊池といった仲間たちと、文学を語り、下宿を訪ね合い、原稿に呻吟する日々を送っていた。ある凩の吹く日、芥川は徹夜で戯曲を書いていた松岡の下宿を訪ねる。眠りこけた松岡の睫毛に涙がたまっているのを見て、芥川の胸には「よくそれ程苦しんだな」というやり切れない心細さがこみ上げ、いつしか自分まで涙ぐんでしまう——。若き文学者たちの、ひたむきで、どこか可笑しくも切ない青春が、あたたかな筆致で描かれる。芥川の回想的散文の名品である。

冒頭部(原文より)

 以下は小説と呼ぶ種類のものではないかも知れない。さうかと云つて、何と呼ぶべきかは自分も亦不案内である。自分は唯、四五年前の自分とその周囲とを、出来る丈こだはらずに、ありのまま書いて見た。        一  十一月の或晴れた朝である。久しぶりに窮屈な制服を着て、学校へ行つたら、正門前でやはり制服を着た成瀬に遇つた。こつちで「やあ」と云ふと、向うでも「やあ」と云つた。

「あの頃の自分の事」芥川龍之介(青空文庫)

末尾部(原文より)

 その時ふと松岡の顔を見ると、彼は眠りながら睫毛の間へ、涙を一ぱいためてゐた。いや、さう云へば頬の上にも、涙の流れた痕が残つてゐた。(……)「莫迦な奴だな。寝ながら泣く程苦しい仕事なんぞをするなよ」――自分はその心細さの中で、かう松岡を叱りたかつた。が、叱りたいその裏では、やつぱり「よくそれ程苦しんだな」と、内証で褒めてやりたかつた。さう思つたら、自分まで、何時の間にか涙ぐんでゐた。

「あの頃の自分の事」芥川龍之介(青空文庫)

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