或る選挙風景(坂口安吾)のあらすじ・登場人物
ボスと拡声器の町
- 文字数
- 6,997字
- 読了目安
- 約14分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 随筆
- 舞台
- 静岡県
この作品について
1951年(昭和26年)、「新潮」に載った随筆。選挙に行く気のなかった安吾が、住んでいた伊東の県議選で、拡声器を載せたトラックを走らせるボス候補に腹を立て、投票に出かけた顛末を書く。トラックの騒音の描写から、地方のボス政治批判、選挙そのものの考察へ話が進む。当時の地方選挙の風景を、安吾の皮肉と諧謔を通して記録している。
あらすじ
競輪場のような騒音の選挙戦だったと安吾は書き出す。自分の住む温泉市では二人の候補がトラックに拡声器をつけて絶叫し、拡声器は鉄砲と原子バクダンほどの違いだと皮肉る。自由党候補は町のボスで、老武芸者のような顔で最後尾に座っている。安吾は元々、選挙は義務ではなく自分の文学が社会的な責任のすべてだと考えて投票に行かないつもりだったが、ボスが対立候補の演説を後から叩きつぶして回るのを聞き、ムラムラして民主党候補に投票した。ところが投票所は靴をぬがなければならない。結果はボスの落選で、投票しなくても溜飲が下がったと安吾は笑う。その背後には、漁師町の女性たちの義憤や浮動票があったのではと推測する。日本の選挙はまずボス退治が第一だと述べ、拡声器の氾濫が金のない候補を不利にすることを心配しつつ、ボスが落ちた町の出来事を喜んで祝杯をあげようと結ぶ。
冒頭部(原文より)
競輪場はうるさいものだ。あと五分で投票を〆切ります、投票を〆切ります。拡声器の間断ない絶叫の合間にベルが脳天をドリルで突きさすように鳴りつづける。人間が殺気立つのは仕方がないような、気違いじみた騒音であるが、今度の選挙はそれよりもひどかった。
「或る選挙風景」坂口安吾(青空文庫)
末尾部(原文より)
しかし、要するに、私の町の当選者を決したような浮動票的存在が多くなり、候補者にも常に然るべき人材が出そろえば、徐々にボスどもの影をひそめしめることは確かであろう。私は伊東市の選挙の結果をわが住む町の好ましき出来事としてお報らせできるのを嬉しく思うのである。
「或る選挙風景」坂口安吾(青空文庫)
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