美男子と煙草(太宰治)のあらすじ・登場人物
古いものとの、私のたたかい
- 文字数
- 4,526字
- 読了目安
- 約9分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
この作品について
「古いものとのたたかい」に疲れ、負けそうだと弱音を吐くところから始まる太宰治の随筆風の短編。雑誌の企画で上野の浮浪児たちを取材することになった顛末が語られる。自嘲とサービス精神が同居した、晩年の太宰らしい一編。
あらすじ
私は独りで今日までたたかって来たつもりですが、何だかどうにも負けそうで、心細くてたまらなくなりました——そう書き出される。私のたたかいとは、古いものとのたたかいであり、ありきたりの気取り、見えすいたお体裁、ケチくさいものへのたたかいだった。そのために持ち物全部を失い、いつも酒を飲まずにはいられない気持ちでいる。古い者は意地が悪い。陳腐きわまる文学論を恥ずかしげもなく並べて新しい必死の発芽を踏みにじり、しかも自分の罪悪に気づいていない。命が惜しくて、金が惜しくて、出世して妻子をよろこばせたくて、徒党を組んで仲間ぼめして、孤影の者をいじめる——先日も、下等な酒を飲んでいたら年寄りの文学者三人に取りかこまれ、見当ちがいの説教をされた、と太宰は書く。そんな折、雑誌記者から上野の浮浪者たちを訪ねる企画を持ちかけられる。気は進まないが引き受け、地下道の浮浪児たちに会い、言葉を交わし、写真を撮られた。後日届いた写真は二枚。笑い合っている一枚と、浮浪児の足をつかんでいる妙なポーズの一枚である。ヨハネ伝の洗足の真似だと誤解されては困ると弁明したうえで、太宰は最後に笑い話を添える。写真を女房に「これが、上野の浮浪者だ」と見せたら、女房は真面目に見入っていた——その見詰めている先が自分だったのだ。「お前は、何を感違いして見ているのだ。それは、おれだよ」。
登場人物
- 私 古いものとたたかいつづける作家
- 浮浪児たち 上野の地下道で暮らす子どもたち
- 女房 写真の夫を浮浪者と見誤る
冒頭部(原文より)
私は、独りで、きょうまでたたかって来たつもりですが、何だかどうにも負けそうで、心細くてたまらなくなりました。けれども、まさか、いままで軽蔑しつづけて来た者たちに、どうか仲間にいれて下さい、私が悪うございました、と今さら頼む事も出来ません。私は、やっぱり独りで、下等な酒など飲みながら、私のたたかいを、たたかい続けるよりほか無いんです。
「美男子と煙草」太宰治(青空文庫)
末尾部(原文より)
「これが、上野の浮浪者だ。」 と教えてやったら、女房は真面目に、 「はあ、これが浮浪者ですか。」 と言い、つくづく写真を見ていたが、ふと私はその女房の見詰めている個所を見て驚き、 「お前は、何を感違いして見ているのだ。それは、おれだよ。お前の亭主じゃないか。浮浪者は、そっちの方だ。」
「美男子と煙草」太宰治(青空文庫)
原文を読む
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