文芸の哲学的基礎(夏目漱石)のあらすじ・登場人物
意識の連続から文芸の理想へ
- 文字数
- 49,520字
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- 約1時間39分
- 表記
- 新字新仮名
この作品について
1907年4月、東京美術学校の文学会開会式で行われた漱石の講演。講演速記を漱石自身が書き改め、朝日新聞に分載された。通俗の物と我の区別を疑う「意識の連続」の考えから出発し、文芸家の理想を真・美・善・壮の四つに分けて説く。美術学校の学生を前にしているため絵画の例も多く、技巧と理想の関係にも話が及ぶ。入社の辞に続いて、新聞社員としての漱石が自らの文芸観の大要を示した長篇の評論でもある。
あらすじ
美術学校での講演という体裁だが、実際は朝日新聞のために書き改められた論文である。漱石はまず、ここに立つ私と聴衆、その間の空間、講演の時間、そこに働く因果といった通俗の世界観を、よく考えれば怪しいものだと疑ってみせる。確かなのは意識だけであり、人間は生きたいという傾向から意識を連続させようとする。そこに選択が生まれ、選択から理想が生まれる。空間も時間も因果の法則も、生きるために抽象した便宜上の仮定にすぎない。意識が分化すると、知を働かせる人は哲学者や科学者、情を働かせる人は文芸家、意を働かせる人は実行家になる。文芸家は感覚的な具体を通じて理想をあらわし、その理想は美・真・善(愛や道義)・壮(荘厳)の四種に分かれる。四つは対等で、どれかを標準に他を裁いてはならない。現代文学は真を理想としているが、技巧だけで理想のない作は市気匠気にとどまる。理想が作品に通じ、読者の意識と一致するとき、還元的感化が生まれる。講演は、芸術家は閑人ではなく自分の理想に自信を持てと結ばれる。
冒頭部(原文より)
東京美術学校文学会の開会式に一場の講演を依頼された余は、朝日新聞社員として、同紙に自説を発表すべしと云う条件で引き受けた上、面倒ながらその速記を会長に依頼した。
「文芸の哲学的基礎」夏目漱石(青空文庫)
末尾部(原文より)
そうして百人に一人でも、千人に一人でも、この作物に対して、ある程度以上に意識の連続において一致するならば、一歩進んで全然その作物の奥より閃めき出ずる真と善と美と壮に合して、未来の生活上に消えがたき痕跡を残すならば、なお進んで還元的感化の妙境に達し得るならば、文芸家の精神気魄は無形の伝染により、社会の大意識に影響するが故に、永久の生命を人類内面の歴史中に得て、ここに自己の使命を完うしたるものであります。
「文芸の哲学的基礎」夏目漱石(青空文庫)
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