文芸と道徳(夏目漱石)のあらすじ・登場人物
浪漫と自然に見る道徳の移り変わり
- 文字数
- 16,679字
- 読了目安
- 約33分
- 表記
- 新字新仮名
この作品について
1911年8月、朝日新聞社の関西講演会で漱石が大阪で行った講演の記録。維新前の「ロマンチックな道徳」と、維新後の「ナチュラリスチックな道徳」を対比し、それを文学の浪漫主義・自然主義に重ねて、文芸と道徳が切り離せないことを説く。暑さと聴衆の多さをこぼす軽妙な語り口も特徴で、講演の雰囲気をよく伝える。
あらすじ
冒頭は、初めての大阪講演に際して、暑さと大勢の聴衆を前にした漱石の軽口である。本題では、まず昔の道徳と今の道徳を分ける。維新前は忠臣・孝子・貞女といった完全な模範を立て、努力すればその通りになれるとして感激的な生活を強い、過失には苛酷な制裁を加えた。維新後は、人間は完全ではなく弱点を併せ持つという事実から道徳が組み立てられ、社会も弱点の告白に寛大になった。次に漱石は、これを文学の二つの流れに重ねる。浪漫主義は人物を偉大に描いて読者を感激させるが、故意の痕跡が出ると厭味になる。自然主義は人間をありのまま描くため汚い面も出るが、正直に書かれていれば芸術的でもあり、読者に同情や謙虚さを与える。ロマンチックな道徳はすでに過去のものだが、自然主義の道徳には放縦の弊があり、新しい浪漫的な反動が部分的に起こるだろうと見る。道徳と文芸は密接に結びつくと締めくくられる。
冒頭部(原文より)
私はこの大阪で講演をやるのは初めてであります。またこういう大勢の前に立つのも初めてであります。実は演説をやるつもりではない、むしろ講義をする気で来たのですが、講義と云うものはこんな多人数を相手にする性質のものでありません。
「文芸と道徳」夏目漱石(青空文庫)
末尾部(原文より)
この二つの言葉は文学者の専有物ではなくって、あなた方と切り離し得べからざる道徳の形容詞としてすぐ応用ができるというのが私の意見で、なぜそう応用ができるかという訳と、かく応用された言葉の表現する道徳が日本の過去現在に興味ある陰影を投げているという事と、それからその陰影がどういう具合に未来に放射されるであろうかという予想と――まずこれらが私の演題の主眼な点なのであります。
「文芸と道徳」夏目漱石(青空文庫)
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