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智恵子の紙絵(高村光太郎)のあらすじ・登場人物

千数百枚の切り抜き絵は智恵子の詩

高村光太郎 

文字数
1,145字
読了目安
約2分
表記
新字旧仮名
種別
随筆

この作品について

精神を病んだ妻智恵子が、病院で作った切り紙の絵について、高村光太郎が書いた短い随筆。千羽鶴から始まった手仕事が、色紙で作る芸術品へと進んでいく経緯を、驚きとやさしさをもって綴る。『智恵子抄』と合わせて読まれる、晩年の智恵子を伝える文章。

あらすじ

精神病者に簡単な手工をすすめるのがよいと聞いていた光太郎は、入院して半年がたち昂奮が静まった頃の智恵子に、好きだった千代紙を持っていく。智恵子は喜んで千羽鶴を折り、部屋の天井には折鶴が増えていく。やがて色紙を鋏で切った模様風の紙細工を、大切そうに包んで見せられ、光太郎は折鶴から飛躍した立派な芸術品に驚く。智恵子は恥ずかしそうに笑い、お辞儀をした。色彩への要求が強まって色紙を求めるようになり、食膳に出た皿の上のものを紙で作るまで箸を取らず、看護婦を困らせることもあった。千数百枚に及ぶ切り抜き絵は、智恵子の詩であり、抒情であり、生活の記録であり、この世への愛の表明であった、と結ばれる。

冒頭部(原文より)

 精神病者に簡単な手工をすすめるのはいいときいてゐたので、智恵子が病院に入院して、半年もたち、昂奮がやや鎮静した頃、私は智恵子の平常好きだつた千代紙を持つていつた。智恵子は大へんよろこんで其で千羽鶴を折つた。訪問するたびに部屋の天井から下つてゐる鶴の折紙がふえて美しかつた。そのうち、鶴の外にも紙灯籠だとか其他の形のものが作られるやうになり、中々意匠をこらしたものがぶら下つてゐた。すると或時、智恵子は訪問の私に一つの紙づつみを渡して見ろといふ風情であつた。紙包をあけると中に色がみを鋏で切つた模様風の美しい紙細工が大切さうに仕舞つてあつた。其を見て私は驚いた。其がまつたく折鶴から飛躍的に進んだ立派な芸術品であつたからである。私の感嘆を見て智恵子は恥かしさうに笑つたり、お辞儀をしたりしてゐた。

「智恵子の紙絵」高村光太郎(青空文庫)

末尾部(原文より)

 その頃は、何でもそこらにある紙きれを手あたり次第に用ゐてゐたのであるが、やがて色彩に対する要求が強くなつたと見えて、いろ紙を持つて来てくれといふやうになつた。私は早速丸の内のはい原へ行つて子供が折紙につかふいろ紙を幾種か買つて送つた。智恵子の「仕事」がそれから始まつた。看護婦さんのいふところによると、風邪をひいたり、熱を出したりした時以外は、毎日「仕事」をするのだといつて、朝からしきりと切紙細工をやつてゐたらしい。鋏はマニキュアに使ふ小さな、尖端の曲つた鋏である。その鋏一挺を手にして、暫く紙を見つめてゐてから、あとはすらすらと切りぬいてゆくのだといふ事である。模様の類は紙を四つ折又は八つ折にして置いて切りぬいてから紙をひらくと其処にシムメトリイが出来るわけである。さういふ模様に中々おもしろいのがある。はじめは一枚の紙で一枚を作る単色のものであつたが、後にはだんだん色調の配合、色量の均衡、布置の比例等に微妙な神経がはたらいて来て紙は一個のカムバスとなつた。十二単衣に於ける色襲ねの美を見るやうに、一枚の切抜きを又一枚の別のいろ紙の上に貼りつけ、その色の調和や対照に妙味尽きないものが出来るやうになつた。或は同色を襲ねたり、或は近似の色で構成したり、或は鋏で線だけ切つて切りぬかずに置いたり、いろいろの技巧をこらした。此の切りぬかずに置いて、其を別の紙の上に貼つたのは、下の紙の色がちらちらと上の紙の線の間に見えて不可言の美を作る。智恵子は触目のものを手あたり次第に題材にした。食膳が出ると其の皿の上のものを紙でつくらないうちは箸をとらず、そのため食事が遅れて看護婦さんを困らした事も多かつたらしい。千数百枚に及ぶ此等の切抜絵はすべて智恵子の詩であり、抒情であり、機智であり、生活記録であり、此世への愛の表明である。此を私に見せる時の智恵子の恥かしさうなうれしさうな顔が忘れられない。

「智恵子の紙絵」高村光太郎(青空文庫)

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