木彫ウソを作った時(高村光太郎)のあらすじ・登場人物
ヒュウ、ヒュウと鳴く小鳥
- 文字数
- 2,464字
- 読了目安
- 約5分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 随筆
この作品について
高村光太郎が、鳥のウソの鳴き声に惹かれて木彫のウソを作った経緯を語る随筆。小鳥屋で聞いたヒュウ、ヒュウという声との出会いから、制作の七日間、智恵子との思い出までを、淡々とあたたかく書く。日本の名随筆『鳥』に収められた一編。
あらすじ
自分では生き物を飼わないが、鳥獣虫魚の美しさには心を動かされると書き出す。母が生きていた頃のある冬の日、本郷の小鳥屋でセキセイインコの派手なおしゃべりの間から、鋭く透る静かな声が聞こえた。店の奥へ踏み込むと、それがウソという鳥の声だった。その声に魅せられ、後に木彫で作ることになる。鑿と小刀を研ぐのに二、三日、彫りはじめて七日目に完成した。出来は思いの半分にも及ばなかったが、毎日懐に入れて持ち歩き、飯屋でも出して眺めた。まだ健康だった頃の智恵子が持たせてとせがんだ、と最後に添えられ、第一回大調和展覧会に出品した木彫の話だと分かる。
冒頭部(原文より)
私は自分で生きものを飼う事が苦手のため、平常は犬一匹、小鳥一羽も飼っていないが、もともと鳥獣虫魚何にてもあれ、その美しさに心を打たれるので、街を歩いていると我知らず小鳥屋の前に足をとめる。母が生きていた頃だからもう十幾年か以前の事である。或る冬の日本郷肴町の小鳥屋の前に立って、その頃流行していたセキセイインコの籠のたくさん並んでいるのを見ていたが、どうもこの小鳥の極彩色の華美な衣裳と無限につづくおしゃべりとが、周囲のくすんだ渋い、北緯三十五度若干の東京の太陽の光とうまく調和しないように感じられて、珍らしくおもしろいとは思いながら、それほど夢中にはなれなかった。そのうちセキセイのぺちゃくちゃの騒音の間から、静かな、しかし音程のひどく高い、鋭く透る、ヒュウ、ヒュウという声が耳にはいった。店の奥の方から来るのだが、それが何だかもっと大変遠いところから聞えて来るような響をしているので、何だろうと思って店の中へ踏み込んだ。その頃私は小鳥の名などをさっぱり知らなかったので、それぞれの籠につけてある名札をよみながら鳥を見た。鶯、山雀、目白、文鳥、十姉妹などの籠の上に載っていたウソをその時はじめて詳しく観察した。さっきの声はそのウソの鳴音だったのである。
「木彫ウソを作った時」高村光太郎(青空文庫)
末尾部(原文より)
何にしろ黒じみず垢じみず、梅林のけはいの何処かにしみこんでいる、すぱりとして鋭いくせに、またおっとりした、このドナテロのサンジャンのように直立している山の小鳥の気魄を木で出して見たくてたまらなくなり、それから鑿を研ぎ、小刀を研ぐのに二、三日かかって、わき目もふらずに彫りはじめて七日目にやっと出来た。出来た結果は思の半分にも及ばないが、毎日懐に入れて持って歩いた。飯屋でもそれを出して見ながら飯をくった。まだ健康だった頃の智恵子が私にも持たせてくれとせがんだ。いつぞや第一回大調和展覧会に出品した木彫ウソを作った時の話である。
「木彫ウソを作った時」高村光太郎(青空文庫)
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