チッポケな斧(坂口安吾)のあらすじ・登場人物
禁止という安直な統治を斬る
- 文字数
- 10,233字
- 読了目安
- 約20分
- 表記
- 新字新仮名
この作品について
敗戦後の再建という視点から、チャタレイ裁判(D・H・ロレンスの『チャタレイ夫人の恋人』の翻訳をめぐる起訴)を批判した、坂口安吾の社会評論。昭和26年7月の「新潮」に発表された。「堕落論」以来の歴史批評や時評をふるう自分の仕事を、ささやかな斧にたとえて題とした。天皇制、松本治一郎の逸話、再軍備の動きなど、当時の時事にも触れながら、禁止や検閲に頼る統治の危うさを論じる。
あらすじ
戦後の日本は、古い殻を捨てて白紙から再建できる幸福にめぐまれたが、その再建が危うい方向に傾き始めていると筆者は言う。天皇制の廃止が行われても、学問が真理を究める精神は育たず、焼け跡にバラックを建てるようなやり方が続く。参議院副議長の松本治一郎が天皇の前での儀礼を拒んだことで追放解除が遅れるという噂を引き、風変わりな頑固者を許容することが文明の条件だと説く。そのうえで、チャタレイ夫人の恋人の起訴は、民意に迎合して旧に復そうとする動きの一つにすぎず、検察は文学の高度な目的を無視していると批判する。ワイ本を読む時期に読むのは自然な成長であり、禁止や配給は人間を信頼しない統治のあらわれだ。人間は各人が信頼するに足るものだと述べ、検事に向かって、法廷を人間のものにしてほしいと訴えて結ぶ。
冒頭部(原文より)
戦後の日本は稀有な幸福にめぐまれていた。それは古い殻の多くのものを捨て去って、一応白紙の状態から自由な再建を試みることができるという幸福にめぐまれたのだ。むろん純粋な白紙というものではないが、とにかく一応はそう云ってもよろしかろう。古い日本には多くの悪因習があった。それを捨てて新しくよりよいものを再建できれば、敗戦も戦禍もツグナイができるし、むしろモウケをとることもできる。
「チッポケな斧」坂口安吾(青空文庫)
末尾部(原文より)
検事殿。若い人たちの魂がワイ本を読んで汚れるかどうか真剣に考えてみて下さい。私は自分の一生をふりかえり、また周囲の若い魂の生長を見つつ、そうではないと断言できます。デクノボーたちが作っているウス汚い環境や人生観が悪いのさ。あなた方が育った教育も社会秩序も人間観もデクノボーのもので、人間のものは違っているのだ。そう考えてみる方法を、第一に知る必要があります。もちろん私も、いろいろと考えてみるツモリです。 法廷を人間のものたらしめんことを。アーメン。
「チッポケな斧」坂口安吾(青空文庫)
原文を読む
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