道楽と職業(夏目漱石)のあらすじ・登場人物
職業は人のため道楽は己のため
- 文字数
- 17,081字
- 読了目安
- 約34分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 随筆
この作品について
1911年8月、明石で行われた朝日新聞社の講演の記録で、『朝日講演集』に収められた。他人のために働く「職業」と、自分のために行う「道楽」を対比し、開化が進むほど職業が細分化して人が片輪になっていくと論じる。科学者・哲学者・芸術家のような道楽的な職業を例に、漱石自身の立場にも触れる。身近な例を挙げた漱石らしい講演で、職業と自己本位をめぐる考えを知る入口になる。
あらすじ
職業の種類は開化とともに増え、昔は自分でまかなっていたことを今は他人に任せ、そのかわり自分の専門で人のために働く。人のためにする仕事の分量が、取りも直さず己のためになる分量だと漱石は説く。ただし分業が進めば、人は自分の専門しか知らない片輪になり、博士さえも針の先で井戸を掘るようなものだと皮肉る。孤立した個々をつなぐには、講演や社交のほか、文学書を読むことを勧める。職業は他人本位であり、自分の仕事を曲げて世間の御機嫌を取らなければならない。そのため、好きなことも職業になると嫌になる。ただし科学者・哲学者・芸術家は、自分本位でなければ成り立たないという点で特別である。禅僧やミレー、大雅堂のように、自己本位の者は物質的には恵まれない。漱石は自分の文学を、己のためにしたことが偶然人の気に入り、報酬になった道楽的職業だと述べて結ぶ。
冒頭部(原文より)
ただいまは牧君の満洲問題――満洲の過去と満洲の未来というような問題について、大変条理の明かな、そうして秩序のよい演説がありました。そこで牧君の披露に依ると、そのあとへ出る私は一段と面白い話をするというようになっているが、なかなか牧君のように旨くできませぬ。
「道楽と職業」夏目漱石(青空文庫)
末尾部(原文より)
私は職業の性質やら特色についてはじめに一言を費やし、開化の趨勢上その社会に及ぼす影響を述べ、最後に職業と道楽の関係を説き、その末段に道楽的職業というような一種の変体のある事を御吹聴に及んで私などの職業がどの点まで職業でどの点までが道楽であるかを諸君に大体理会せしめたつもりであります。これでこの講演を終ります。
「道楽と職業」夏目漱石(青空文庫)
名文
職業というものは要するに人のためにするものだという事に、どうしても根本義を置かなければなりません。
漱石の講演『道楽と職業』の結論部。職業は他人本位、道楽は自己本位という対比を、講演らしい平明な語り口でまとめている。
ことに芸術家で己の無い芸術家は蝉の脱殻同然で、ほとんど役に立たない。
芸術家は自己本位でなければ成り立たないと語る一節。「蝉の脱殻」のたとえが鮮やかで、作家としての漱石自身の覚悟もにじむ。
原文を読む
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