奴隷根性論(大杉栄)のあらすじ・登場人物
服従はいまも残る名残り
- 社会
- 文字数
- 3,853字
- 読了目安
- 約8分
- 表記
- 新字新仮名
この作品について
捕虜が食われずに生かされて苦役につく——そこから奴隷が生まれ、土地私有とともに階級が生まれた。大杉栄が未開社会の記録を並べながら、強者への盲目的服従という「一大道徳律」がいかにして人類の脳髄に深い溝を穿ったかを説く評論。「服従を基礎とする今日のいっさいの道徳は、要するにこの奴隷根性のお名残りである」。憲法の条文を変えるのはたやすいが、この根性を消し去るのは容易でないという結語が、そのまま彼の運動の出発点を示している。
あらすじ
斬り殺されるか、焼き殺されるか、食い殺されるか——いずれにせよ命を失うはずの捕虜が、生命だけは助けられて苦役につかされる。大杉はこれを原始時代における奴隷の起源のもっとも重要なものとして挙げる。農業の発達が食人の風から蛮人の快楽を奪い、捕虜は駄獣として耕作に使われるようになった。同じ農業の発達とともに土地私有の制度が起こり、借金を返せない貧乏人が金持の奴隷となる。こうして無政府共産の原始自由部落のなかに主人と奴隷が、上下の階級が生まれ、社会的地位によって道徳を異にすることが始まった。……勝利者が敗北者の上に持つ権利は絶対無限である。奴隷は駄獣や家畜と同じように扱われ、病めば捨てられ、気に触れれば殺され、金の代わりに交易される。しかも彼らはそれを無理とは思わず、そう扱われるべき運命だとあきらめている。そしてまず家畜のなかの犬を真似た。カフィール族は酋長に会うたび「私はあなた様の犬でございます」と挨拶し、アフリカ各地では着物を脱ぎ、地に伏し、砂を頭にかぶり、四這いで這い寄る儀式が行われる。恐怖から始まったその作法はやがて苦痛でなくなり、宗教的崇拝にまで変わってゆく。酋長は太陽の兄弟となり、雨を降らせ、法律を超越する。酋長が死ねば妻や奴隷が殉じ、あるいは穴に投げ込まれて餓死させられる。馬鹿馬鹿しい事実を列挙してきたと断ったうえで、大杉は一言の結論を許してほしいという。
冒頭部(原文より)
斬り殺されるか、焼き殺されるか、あるいはまた食い殺されるか、いずれにしても必ずその身を失うべき筈の捕虜が、生命だけは助けられて苦役につかせられる。一言にして言えば、これが原始時代における奴隷の起源のもっとも重要なるものである。
「奴隷根性論」大杉栄(青空文庫)
末尾部(原文より)
政府の形式を変えたり、憲法の条文を改めたりするのは、何でもない仕事である。けれども過去数万年あるいは数十万年の間、われわれ人類の脳髄に刻み込まれたこの奴隷根性を消え去らしめることは、なかなかに容易な事業じゃない。けれども真にわれわれが自由人たらんがためには、どうしてもこの事実は完成しなければならぬ。
「奴隷根性論」大杉栄(青空文庫)
原文を読む
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