永日小品(夏目漱石)のあらすじ・登場人物
日常を写す二十数編の掌編
- 文字数
- 50,001字
- 読了目安
- 約1時間40分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 随筆
この作品について
夏目漱石が1909年(明治42年)1月から3月にかけて東京・大阪朝日新聞に連載した、二十数編からなる小品集。「元日」「猫の墓」「火鉢」「クレイグ先生」など、日常の何気ない情景や幼い日の思い出、ロンドン留学中の回想などを、写生文の手法で綴った掌編の連作である。長編小説とはひと味違う、漱石の軽妙で味わい深い観察眼とユーモア、そしてふとした感慨がにじむ随想の名品として親しまれている。
あらすじ
元日の来客の風景に始まり、飼っていた猫の死を淡々と記す「猫の墓」、幼い日の記憶をたどる小品、そしてロンドン留学時代の回想まで――二十数編の掌編が、それぞれ独立した小さな窓のように並ぶ。なかでも名高い「クレイグ先生」は、漱石が留学中に個人教授を受けたシェークスピア学者クレイグの、風変わりで一途な姿を描いた一編。生涯をかけて一冊の沙翁辞典を編もうとしながら、ついにそれを完成させぬまま世を去ったこの老学者を、漱石は可笑しみと哀惜をこめて回想する。日々のささやかな出来事や心の動きを、肩の力を抜いた写生文でとらえたこれらの小品には、大作の陰にある漱石のやわらかな素顔がのぞく。近代随想文学の佳品として、今も広く読み継がれている連作である。
登場人物
- 自分(漱石) 日常のささやかな情景や幼時・留学の回想を、写生文で綴る語り手
- クレイグ先生 漱石がロンドンで個人教授を受けたシェークスピア学者。生涯をかけた沙翁辞典を完成させぬまま世を去る
冒頭部(原文より)
元日 雑煮を食って、書斎に引き取ると、しばらくして三四人来た。いずれも若い男である。そのうちの一人がフロックを着ている。着なれないせいか、メルトンに対して妙に遠慮する傾きがある。あとのものは皆和服で、かつ不断着のままだからとんと正月らしくない。この連中がフロックを眺めて、やあ――やあと一ツずつ云った。みんな驚いた証拠である。自分も一番あとで、やあと云った。
「永日小品」夏目漱石(青空文庫)
末尾部(原文より)
日本へ帰って二年ほどしたら、新着の文芸雑誌にクレイグ氏が死んだと云う記事が出た。沙翁の専門学者であると云うことが、二三行書き加えてあっただけである。自分はその時雑誌を下へ置いて、あの字引はついに完成されずに、反故になってしまったのかと考えた。
「永日小品」夏目漱石(青空文庫)
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