フロオベエル雑感(坂口安吾)のあらすじ・登場人物
感情教育は色情の教科書
- 文字数
- 2,933字
- 読了目安
- 約6分
- 表記
- 新字旧仮名
- 種別
- 随筆
この作品について
1936年、「早稲田大学新聞」に載った、坂口安吾の短い読書随想。フローベールの『感情教育』三巻を読んだ感想をつづり、この作品を「色情心理解剖の書」と呼ぶ。同じ人間関係の素材からドストエフスキーを思い起こし、対象に食いこむ熱の違いから、フローベールの思想の低俗さと単調さを批判する。いっぽうで、近代的な心理解剖の入門書としての価値は認めている。
あらすじ
安吾は『感情教育』三巻を読み、フローベールは好色だなと思った。二月革命はただの添え物で、この小説は「色情心理解剖の書」である。フレデリックとアルヌー夫人の恋愛は、実現が不可能と知り、むしろ不可能にしてしまうことで熱中し、苦痛を利用して人工的な夢をつくる、後天的な恋愛のありようを示す。同じ型の恋愛をより的確に掴んだ作品として、安吾は二十世紀の天才ラディゲの『オルジェル伯の舞踏会』をあげる。『感情教育』を読みながら、安吾はドストエフスキーを思う。両者の描く人間関係は似ているが、フローベールの興味は恋情と野心に限られ、ドストエフスキーなら人間関係の一つ一つにひたむきに食いこんだはずだと言う。作家の思想は抽象的な言葉ではなく、対象に食いこむ興味の向け方に表れるという立場から、フローベールの文学の根は色情で、思想は低俗で単調だと断じる。それでも、近代的な心理解剖や観察法の分かりやすい教科書としては、この人の書物に勝るものは少ないとし、その意味では自分も愛読者だったと結ぶ。
冒頭部(原文より)
フロオベエルの「感情教育」三巻を読んだ。いつだつたか谷丹三がフロオベエルはひどく好色な奴だねと言つた。谷丹三がどういふわけでさう言つたのか分らないが、私は感情教育を読んで、フロオベエルは好色だなと思つた。
「フロオベエル雑感」坂口安吾(青空文庫)
末尾部(原文より)
私は文学の本質的な価値に於ては全くフロオベエルを愛してゐない。然し近代的な心理解剖や観察法の分りよい正確な教科書、入門書としては、この人の書物に越すものは少いと思へる。この伝統なくしては恐らくラディゲの天才も現れ得なかつたのであらう。さういふ意味では私もたしかにフロオベエルの愛読者であつた。
「フロオベエル雑感」坂口安吾(青空文庫)
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