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不良少年とキリスト(坂口安吾)のあらすじ・登場人物

生きて、生きぬくこと。それだけだ

坂口安吾 1948年(昭和23年)7月 「新潮」

文字数
14,079字
読了目安
約28分
表記
新字新仮名

この作品について

太宰治の死の直後に書かれた、坂口安吾の追悼文にして反追悼文。十日つづく歯痛の話から始まり、「原子バクダンで百万人一瞬にたゝきつぶしたって、たった一人の歯の痛みがとまらなきゃ、なにが文明だい」と毒づきながら、死んでしまった友をさんざんに罵り、そして誰よりも深く弁護する。「生きよ、堕ちよ」の安吾の思想がもっとも激しく噴き出した一編である。

あらすじ

もう十日、歯がいたい——安吾は氷嚢をあてて寝ながら、太宰の本をあらかた読みかえしている。医者は「今に、治るだろうと思います」としか言わない。「原子バクダンで百万人一瞬にたゝきつぶしたって、たった一人の歯の痛みがとまらなきゃ、なにが文明だい。バカヤロー」。そんな私事から書き起こして、文章はやがて死んだ太宰へ向かう。太宰はミーちゃんハーちゃんの綴方の名人であり、フツカヨイ的な自意識に苦しみ、死ぬ死ぬと言いながら死ねずにいた男だった、と安吾は容赦なく書く。だが同時に、太宰の弱さと孤独を誰よりもよく知る者として、その死を「甘さ」と切り捨てる世間にも噛みつく。人は生きることが全部である、死んでしまえば無に帰す、と安吾は言う。生と死を論じる宗教や哲学はオモチャにすぎない。ただ、生きることのみを知ることによって、正義も真実も生まれるのだ。「然し、生きていると、疲れるね」と本音を漏らしながらも、彼はこう言い切る——是が非でも生きる時間を生きぬくよ、そして戦うよ。人間は決して勝てない、ただ負けないのだ、と。学問とは限度の発見にあり、原子爆弾も自殺も学問ではなく子供の遊びだ。「私は、そのために戦う」。

冒頭部(原文より)

 もう十日、歯がいたい。右頬に氷をのせ、ズルフォン剤をのんで、ねている。ねていたくないのだが、氷をのせると、ねる以外に仕方がない。ねて本を読む。太宰の本をあらかた読みかえした。  ズルフォン剤を三箱カラにしたが、痛みがとまらない。是非なく、医者へ行った。

「不良少年とキリスト」坂口安吾(青空文庫)

末尾部(原文より)

 私はこの戦争のおかげで、原子バクダンは学問じゃない、子供の遊びは学問じゃない、戦争も学問じゃない、ということを教えられた。大ゲサなものを、買いかぶっていたのだ。  学問は、限度の発見だ。私は、そのために戦う。

「不良少年とキリスト」坂口安吾(青空文庫)

名文

生きることだけが、大事である、ということ。たったこれだけのことが、わかっていない。本当は、分るとか、分らんという問題じゃない。生きるか、死ぬか、二つしか、ありやせぬ。

太宰治の自殺の直後に書かれた追悼の評論から。友の死を悼みながらも、死を選んだことを「不良少年」の甘えとして退け、生き抜くことの意味を叩きつけるように説く。

原文を読む

原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。

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