銀の匙(中勘助)のあらすじ・登場人物
銀の匙が呼びさます幼き日の記憶
- 作者
- 中勘助
- 発表
- 1913年(大正2年)4月
- 初出
- 東京朝日新聞
- 種別
- 小説
- ジャンル
- 心理
- 文字数
- 93,738字
- 読了目安
- 約3時間7分
- 表記
- 新字旧仮名
この作品について
中勘助が1913年(大正2年)から「東京朝日新聞」に連載した自伝的小説。恩師・夏目漱石が激賞し、その推挙で新聞に掲載された。書斎の小箱にしまわれた一本の銀の小匙を糸口に、病弱で内気だった「私」の、伯母に守られた幼少期の思い出が、みずみずしい子供の感覚のままに繊細につづられる。子供の心の世界を、これほど純粋に写しとった作品はないと評される、日本近代文学の名作である。
あらすじ
「私」の書斎の本箱の抽匣に、昔からひとつの小箱がしまってある。舶来の粉煙草でも入っていたらしいコルク質の箱で、なかには子安貝や椿の実など、小さいころの玩具がつまっているが、そのなかにひとつ、珍しい形の銀の小匙がある。ある日「私」は、家の茶箪笥の抽匣から、この銀の匙をみつけた——それは、病弱だった幼い「私」に、伯母が薬を飲ませるために使ったものだった。この銀の匙を糸口に、物語は「私」の思い出を、子供の感覚そのままに、こまやかにたどっていく。前篇は幼少期。内気で臆病、体が弱く、伯母の背中から降りたこともない「私」が、縁日や見世物、行燈の下の昔話に守られて育ち、やがてお国さん、お蕙ちゃんという二人の友を得て、その別れを知るまで。後篇は少年期。日清戦争に沸く教室で「きっと負ける」と言い張り、修身の授業に反感を抱き、「教育」と称して連れ回す兄に別れを告げ、寺の老僧に憧れ、老いた伯母を訪ねて最後の一夜を過ごす。物語の結び、十七の夏。滞在先の別荘で出会った友人の姉が去っていく晩、俥のひびきが遠ざかり門のしまる音がすると、「私」は花にかくれてとめどもなく涙を流す。なぜひと言挨拶をしなかったのだろうと悔いながら、残された水蜜桃の甘い匂いをかいで、また新たな涙を流すのだった。子供の心の世界を、これほど純粋に描き出した作品はないと評される、中勘助の不朽の名作である。
登場人物
- 私 病弱で内気な少年。作中で名は明かされない
- 伯母さん 夫を亡くして身を寄せ、私を手ひとつで育てた大の迷信家
- お国さん 小石川の向かいの家の女の子。最初の友達
- お蕙ちゃん 隣家の同い年の女の子。勝ち気で、私を勉強に向かわせる
- 兄 「教育」と称して私を釣りに連れ回す。川辺での一言で関係が断たれる
- 姉様 十七の夏に滞在先で出会う友人の姉。別れの場面が結びとなる
人物相関図
章ごとの「厳選あらすじ」
アプリでは、この作品を次の章立てで詳しく読めます(全文はアプリ内)。
- 一 この作品について
- 二 主要人物
- 三 主要なサブキャラクター
- 四 銀の匙と、伯母さんの手ひとつ
- 五 小石川の子供の日々
- 六 学校──びりっこけと級長
- 七 お蕙ちゃん
- 八 後篇──戦争、兄、そして反抗
- 九 少林寺の老僧と、伯母さんとの別れ
- 十 十七の夏──木霊の峰と姉様
- 十一 重要な設定と伏線
冒頭部(原文より)
私の書斎のいろいろながらくた物などいれた本箱の抽匣に昔からひとつの小箱がしまつてある。それはコルク質の木で、板の合せめごとに牡丹の花の模様のついた絵紙をはつてあるが、もとは舶来の粉煙草でもはひつてたものらしい。……なかには子安貝や、椿の実や、小さいときの玩びであつたこまこました物がいつぱいつめてあるが、そのうちにひとつ珍しい形の銀の小匙のあることをかつて忘れたことはない。
『銀の匙』中勘助(青空文庫)
末尾部(原文より)
「さやうなら御機嫌よう」 私は暗いところで黙つて頭をさげた。俥のひびきが遠ざかつて門のしまる音がした。私は花にかくれてとめどもなく流れる涙をふいた。私はなぜなんとかいはなかつたらう。どうしてひと言挨拶をしなかつたらう。
『銀の匙』中勘助(青空文庫)
名文
私の書斎のいろいろながらくた物などいれた本箱の抽匣に昔からひとつの小箱がしまつてある。
書斎の小箱にしまわれた「銀の匙」から幼時を手繰り寄せる書き出し。漱石が絶賛した、清冽な自伝的小品。
原文を読む
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