アプリで読む

無料・登録不要

変な音(夏目漱石)のあらすじ・登場人物

隣室から聞こえる大根おろしの音

夏目漱石 1911年(明治44年)1月 「東京朝日新聞」

文字数
3,763字
読了目安
約8分
表記
新字新仮名
種別
随筆
舞台
  • 東京都

この作品について

病院の隣室から聞こえてくる、大根おろしを擦るような妙な音。その正体が何なのかを気にしつづけた入院中の「自分」が、退院間際にようやく答えを知る——夏目漱石が胃潰瘍で長期入院した経験から書いた小品。ささやかな謎解きの体裁の底に、生と死をめぐる静かな感慨が沈んでいる。

あらすじ

うとうとして目が覚めると、隣の室から妙な音がする。山葵おろしで大根かなにかをごそごそ擦っているに違いない——だがここは病院である。病室では炊事も菓子も禁じられているのに、こんな時分に大根おろしを拵えるはずがない。別の音がそう聞こえるのだと分かってはいても、一度耳についたその音は神経に祟って忘れられない。廊下を歩く看護婦の上草履の音さえしない静けさのなかで、ごしごしと物を擦り減らすような響きだけが気になった。やがて病状が快方に向かうにつれ、「自分」の関心は隣室の患者へと移ってゆく。ときおり聞こえるうめき声、看護婦のやりとり、そして自分の側からも革砥で剃刀を研ぐ音が隣に漏れていること。退院の日、看護婦との会話で、二つの音の正体がようやく明かされる。隣の患者は「自分」の革砥の音を朝の運動の器械の音だと思いこみ、羨ましいと何度も繰り返していたという。そしてあの大根おろしの音は、足が熱ると訴える患者のために、看護婦が胡瓜を擦っていた音だった。「いったい○○さんの病気は何だい」「直腸癌です」——ここを退院するとすぐ亡くなった、と看護婦は言う。自分は黙然として室に帰り、胡瓜の音で他を焦らして死んだ男と、革砥の音を羨ましがらせて快くなった人との相違を、心の中で思い比べた。

登場人物

冒頭部(原文より)

 うとうとしたと思ううちに眼が覚めた。すると、隣の室で妙な音がする。始めは何の音ともまたどこから来るとも判然した見当がつかなかったが、聞いているうちに、だんだん耳の中へ纏まった観念ができてきた。何でも山葵おろしで大根かなにかをごそごそ擦っているに違ない。自分は確にそうだと思った。

「変な音」夏目漱石(青空文庫)

末尾部(原文より)

「じゃとてもむずかしいんだね」 「ええもうとうに。ここを退院なさると直でした、御亡くなりになったのは」  自分は黙然としてわが室に帰った。そうして胡瓜の音で他を焦らして死んだ男と、革砥の音を羨ましがらせて快くなった人との相違を心の中で思い比べた。

「変な音」夏目漱石(青空文庫)

原文を読む

原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。

青空文庫の図書カード

同じ作家の作品