一夜(夏目漱石)のあらすじ・登場人物
髯ある人と髯なき人と女の一夜
- 文字数
- 6,012字
- 読了目安
- 約12分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
この作品について
夏目漱石の初期の短編。「漾虚集」に収められた、実験的で絵画的な小品である。髯のある人、髯のない人、そして涼しい眼の女——三人が一つの座敷で過ごす、とりとめのない一夜を、俳句的で装飾ゆたかな文体で描く。
あらすじ
「美くしき多くの人の、美くしき多くの夢を……」と、髯のある人が微吟しては思案にふける。「描けども成らず、描けども成らず」と、髯のない人が禅語めいた即興を口ずさむ。そして、違い棚を背にした涼しい眼の女が、「画家ならば絵にもしましょ。女ならば絹を枠に張って、縫いにとりましょ」と応じる——。八畳の座敷に落ち合った三人の男女が、明確な筋も事件もないまま、言葉と沈黙をゆきかわせて、ひと夜を過ごす。「なぜ三人が落ち合った? それは知らぬ」「人生を書いたので小説をかいたのでないから仕方がない」——物語を語ることを拒み、情景と情緒だけを、俳句的で絵画的な文体に結晶させた、漱石初期の実験的な小品である。
冒頭部(原文より)
「美くしき多くの人の、美くしき多くの夢を……」と髯ある人が二たび三たび微吟して、あとは思案の体である。灯に写る床柱にもたれたる直き背の、この時少しく前にかがんで、両手に抱く膝頭に険しき山が出来る。
「一夜」夏目漱石(青空文庫)
末尾部(原文より)
八畳の座敷に髯のある人と、髯のない人と、涼しき眼の女が会して、かくのごとく一夜を過した。彼らの一夜を描いたのは彼らの生涯を描いたのである。 なぜ三人が落ち合った? それは知らぬ。(……)なぜ三人とも一時に寝た? 三人とも一時に眠くなったからである。
「一夜」夏目漱石(青空文庫)
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