居酒屋の聖人(坂口安吾)のあらすじ・登場人物
トンパチ屋の総理大臣
- 文字数
- 2,541字
- 読了目安
- 約5分
- 表記
- 新字旧仮名
- 種別
- 随筆
- 舞台
- 茨城県
この作品について
1942年(昭和17年)9月、「日本学芸新聞」に載った短い随筆。茨城県取手で暮らした時期、居酒屋「トンパチ屋」で見た百姓たちの酔態を、ユーモラスに書く。農民が酔うと決まって総理大臣になって気焔をあげるという観察から、仕事が書けずにくさっていた自分の姿へ話が戻る。旧仮名で書かれた、軽妙な小品である。
あらすじ
取手は利根川を渡った茨城県の宿場町で、酒屋の居酒屋ではコップ酒を「トンパチ」と呼ぶ。常連の百姓や工場労務者は、自分の職業の自慢はせず、酔うと腕をまくって近衛を呼べ、総理大臣は何をしているなどと言いだし、三人ほど総理大臣が出来上がる。浅間山中で暮らしたときに出会った、昆虫網を担いで烏アゲハを探すだけの親爺は、酔うと「奈良原の王様」になった。取手のオワイ屋の二人も、怠け者のくせに酔うと総理大臣になる。安吾はこの時期、自信を失い書けずに寝てばかりの日々で、彼らが仕事の自慢をしないことに救われていた。そのため宿屋のおばさんには聖人と呼ばれるほどおとなしかったが、教訓として、傍若無人に気焔をあげるべきで、聖人などと呼ばれては仕事はできないと結ぶ。
冒頭部(原文より)
我孫子から利根川をひとつ越すと、こゝはもう茨城県で、上野から五十六分しかかゝらぬのだが、取手といふ町がある。昔は利根川の渡しがあつて、水戸様の御本陣など残つてゐる宿場町だが、今は御大師の参詣人と鮒釣りの人以外には衆人の立寄らぬ所である。
「居酒屋の聖人」坂口安吾(青空文庫)
末尾部(原文より)
まつたく不思議な話である。どうしてこんな信頼を博したかといふと、総理大臣の気焔に身を切られる思ひで、くさり果てゝゐたからであつた。 教訓。傍若無人に気焔をあげるべきである。間違つても聖人などゝよばれては金輪際仕事はできぬ。
「居酒屋の聖人」坂口安吾(青空文庫)
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