海豹と雲(北原白秋)のあらすじ・登場人物
古代の神を、近代の言葉で呼び戻す
- 文字数
- 24,349字
- 読了目安
- 約49分
- 表記
- 新字旧仮名
この作品について
「水墨集」から八年、四十代半ばの北原白秋が編んだ詩集。古事記や祝詞の言葉づかいを現代によみがえらせようとする「古代新頌」に始まり、花鳥を描く幽玄体の詩篇、北海道・樺太への旅を歌う表題作まで——白秋が「古代神の復活」を言霊に祈った、円熟期の一冊である。
あらすじ
巻頭に置かれた「古代新頌」は、「水上は思ふべきかな」と繰り返す祈りのような一篇に始まり、「独神」「言問」「猟夫」「狼」と続く。古事記・日本紀・風土記・祝詞の語法を引き寄せながら、白秋はそこに近代の照明を当てようとする。続く「白い花鳥図」の諸篇では、水禽、白鷺、白牡丹、辛夷、鵲、鳩といった唐画の題材が、余白の多い短い行に置かれ、「老鶏」のような荒々しい一篇も混じる。「月光の谿」「風を祭る」では、大森馬込の丘から見おろす夜景や、橋の架かる真昼の風景がうたわれ、「鳶よ、飛べ」と呼びかける現代的な律動があらわれる。表題作「海豹と雲」は、汐首岬、樺太の山中、曇り日のオホーツク海、老いしアイヌの歌——北の旅の記憶を連ねた一連である。後半の「水郷の早春」は故郷の水辺に戻り、沼べりの葦、小舟に乗せられた赤い雌牛、蛙の声を、やわらかな口語で写しとる。巻末に近い「金粉の靄」の諸篇では、落葉松林や胡桃の老木を前にした静かな一日が語られ、詩集は月夜の樹を見上げる三行で閉じられる。序と後記に、白秋は「一音の言葉にも広大の宇宙がある」と、その詩法を書き残している。
冒頭部(原文より)
古代新頌 水上 水上は思ふべきかな。 苔清水湧きしたたり、 日の光透きしたたり、 橿、馬酔木、枝さし蔽ひ、 鏡葉の湯津真椿の真洞なす 水上は思ふべきかな。
「海豹と雲」北原白秋(青空文庫)
末尾部(原文より)
良夜 月の夜の よう枯れし白樺なる。 月の夜の翁ぐさかと触れてゐる。 かげ からまつに からまつのかげうつりたり。 月の夜ならし。 樹 白樺のはやしのなかに 胡桃の木ひとり老いたり。 花の青さや。
「海豹と雲」北原白秋(青空文庫)
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